NHK映らないテレビで受信契約義務を否定、放送法の規定について
2020/07/01 契約法務, 民法・商法, その他
はじめに
NHKとの受信契約義務の有無が争われた訴訟で26日、東京地裁はNHKが映らないテレビであれば受信契約義務はないとの判決をだしていたことがわかりました。特別なフィルターがつけられたテレビだったとのことです。今回は放送法による受信契約義務について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告はNHKの受信料徴収に批判的な意見の持ち主で、2018年10月にNHKの番組が映らないようにするフィルターがついたテレビを3000円で購入し、自宅に設置していたとのことです。このフィルターは筑波大学の准教授が開発したものとされ、NHK側は様々な実験を行った結果、増幅器を使用すれば簡単にNHKの番組を受信できる状態に復元できると主張しておりました。原告側は契約義務がないことの確認を求め東京地裁に提訴しておりました。
放送法による受信契約義務
放送法64条1項によりますと、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は協会とその放送の受信について契約をしなければならない」とされております。放送の不偏不党、真実および自律を保障することによって放送の表現の自由を確保し健全な民主主義の発達を促すことを目的とし、公共放送としてのNHKに受信料の徴収を認めたものと言われております。この規定については財産権や契約自由の原則を侵害し憲法に反するのではないかとも言われておりますが、最高裁は合憲であるとしております(最判平成29年12月6日)。
受信契約に関する問題点
これまで放送法64条1項の受信契約義務に関して問題となっていた点としてはまず「受信設備を設置した者」の該当性が挙げられます。あらかじめテレビが設置されていた賃貸住宅での契約義務者は賃借人か賃貸会社かで争われた事例で最高裁は「受信設備を占有して放送を受信できるもの」も含まれるとした高裁判断を支持しております(裁決平成30年8月29日)。一方で各部屋にテレビが設置されたホテルでは宿泊客ではなくホテル側に契約義務があるとしております(裁決令和元年7月26日)。またワンセグ携帯電話についても東京高裁は「設置」には「携帯」も含むとして受信契約の締結義務を認めており、それを不服とした原告側の上告を退けております(裁決平成31年3月13日)。
その他の問題点
放送法64条1項に関するその他の問題点としては、受信契約の成立時期、受信料の支払い時期が挙げられます。受信契約の成立時期についてはテレビを設置した時点やNHKからの契約申し込み時ではなく、テレビ設置者が受信契約の承諾の意思表示をした時点、または承諾を命じる判決確定時とされております。また受信料については契約締結時からではなくテレビを設置した月の分から支払う必要があると言われております。
コメント
本件で問題となったのは特殊なフィルターによってNHKの放送を受信できないテレビを設置しても受信契約の締結義務が生じるのかという点です。NHK側は電波の増幅器を使用することによって簡単に受信できるようになるとしていましたが、東京地裁は増幅器を出費しなければ受信できないテレビは、受信できる設備とは言えないとし契約義務を否定しました。今後控訴審で覆る可能性もありますが、この判決によりこのような装置の使用が拡大していくのではないかと考えられます。以上のように放送法の受信契約義務に関してはこれまで多くの争点が発生し、かなりの部分で最高裁による判断も出されてきました。契約義務の有無は自社内だけでなく、自社所有物件でのコストに影響を及ぼします。今後の訴訟の動向を注視しておくことが重要と言えるでしょう。
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