関電株主らが現経営陣を提訴、株主代表訴訟について
2020/07/27 商事法務, 訴訟対応, 会社法, 民事訴訟法, その他
はじめに
金品受領問題を巡り、関西電力の個人株主ら5人が先月23日、旧経営陣に加え現経営陣に対しても株主代表訴訟を提起していたことがわかりました。請求額は約92億円とのことです。今回は株主代表訴訟について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、関電は先月16日、八木誠前会長ら元取締役5人を相手取り、計約19億3600万円の損害賠償を求める訴訟を提起しましたが、森本孝社長を含む現経営陣に対しては提訴を見送っておりました。それでは責任追求の範囲が狭いとして個人株主ら5人は既に提訴されている旧経営陣に加え、現経営陣らおよび現旧監査役8人を含め提訴したとのことです。関電と旧取締役の馴れ合いによる和解や手抜き訴訟を防ぎ、隠された事実を解明したいとしています。
役員の責任と株主代表訴訟
取締役などの役員等は会社とは委任関係に立ち(会社法330条)、会社に対して善管注意義務や忠実義務を負います(民法644条、会社法355条)。それらに違反して任務を怠り、会社に損害が生じた場合にはその賠償をする責任を負います(423条1項)。この場合、本来的には会社が当該役員等を相手取り提訴することとなりますが、役員同士の仲間意識等から十分に責任追求がなされないこともありえます。そこで一定の要件の下、株主が会社を代表して提訴することが認められております。これを株主代表訴訟と呼びます(847条1項)。
株主代表訴訟の要件
株主代表訴訟を提起するためには、公開会社では6ヶ月前から株式を保有している必要がありますが、持ち株数に制限はなく1株でも保有していれば原告となることができます(847条1項)。これは原則として単元未満株の株主でも可能ですが定款の定めにより排除することも可能です。提訴権を有する株主はまず書面で会社に対し提訴請求を行います。60日以内に提訴されない場合に当該株主は提訴することが可能となります。なお会社が提訴しない場合、当該株主から請求があったときはその理由を通知する必要があります(同4項)。株主が提訴した場合は、株主は遅滞なく会社に対して訴訟告知をすることとなります(849条3項)。
その他の規定
役員等に対する責任追求の訴えが提起された場合、会社や他の株主はその訴訟に参加することができます(共同訴訟参加
849条1項)。これは当事者同士が通謀して馴れ合い訴訟を行い、十分に責任追求がなされないことを防ぐことが目的です。この訴訟参加は株式の保有期間が6ヶ月に満たない株主であっても可能です。なお既に責任追求の訴えが提起されている場合、株主は別途提起することは原則できません(民訴142条)。しかし訴えの内容や相手となる役員が異なる場合は可能と言えす。このような場合には弁論が併合されることがあると考えられます(民訴152条1項)。
コメント
本件では既に関電から旧経営陣に対して責任追及の訴えが提起されていたところ、個人株主から現経営陣や監査役も被告に加えて新たに提訴されました。両訴訟は併合され審理されていくことが予想されます。以上のように株主代表訴訟は1株でも保有していれば原告となることができ、単元未満株や議決権制限株の株主でも提訴できます。また株主代表訴訟は訴額に関わらず、財産上の請求ではない訴えとみなされ(847条6項)、訴訟手数料も1万3000円と低額なことから個人株主も提訴しやすくなっております。このため不祥事が生じた場合、大株主や筆頭株主が提訴しない意向でも個人株主は納得せず提訴する可能性が高いと言えます。どのような手続きで株主代表訴訟が行われていくのかを予め把握して対応していくことが重要と言えるでしょう。
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