消費者庁がARIIXに業務停止命令、連鎖販売取引規制について
2020/11/26 消費者取引関連法務, 特定商取引法, その他
はじめに
消費者庁は20日、十分な説明や書面の交付を行わず連鎖販売取引の勧誘をしたとしてARIIX JAPAN合同会社に対し業務停止命令を出していたことがわかりました。年間売上は約42億円だったとのことです。今回は特定商取引法が規制する連鎖販売取引について見ていきます。
事案の概要
消費者庁の発表などによりますと、ARIIX社は2012年頃から同社の栄養補助食品「ニュートリファイ」、化粧品「ピュリティ」や空気清浄機などの商品の販売のあっせんをする者を勧誘していたとされます。具体的には同社の製品を購入し、その後知り合いなど新たに紹介して契約させるほど報酬がはいるなどと説明して勧誘しておりました。その際、同事業の統括者の名称や勧誘目的、商品の種類などの説明や書面等の交付も無く、また複数人で長時間にわたり繰り返し契約締結の勧誘を行っていたとのことです。
連鎖販売取引とは
個人を販売員として勧誘し、またその個人がさらに次の販売員を勧誘するといった形で連鎖的に販売組織が拡大していく取引を連鎖販売取引と言います。一般的にはマルチ商法とも呼ばれますが特定商取引法では、①物品または役務の販売事業であり、②再販売、受託販売、販売のあっせんをする者を③特定利益が得られると勧誘し、④特定負担を伴う取引をする場合を連鎖販売取引と言うとしております(33条)。「この商品を購入して、他の人を勧誘すると何円の紹介料がもらえます」といった勧誘が典型例といえます。現在この連鎖販売取引にはかなり厳格な規制が置かれており、違反した場合には業務改善指示(38条)や業務停止命令(39条)、業務禁止命令(39条の2)などの行政処分だけでなく、罰則として3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(70条1号)。
連鎖販売取引への規制
連鎖販売取引を行う場合、勧誘に際しては、相手方に統括者、勧誘者、販売業者の氏名(名称)、勧誘目的、商品(役務)の種類を明示し(33条の2)、契約の際にはそれらに加え、特定利益や特定負担に関する事項、契約解除や割賦販売法に基づく抗弁権に関する事項などを記載した書面の交付が必要です(37条)。また禁止行為として勧誘の際の不実告知や重要事項についての不告知、解除させないために威迫させ困惑させること、勧誘目的を告げずに公衆の出入りしない場所で勧誘を行うことが禁止されます(34条)。誇大広告ややらかじめ承諾していない消費者に広告メールを送信することも禁止されております(36条の3)。また通常の場合クーリングオフは8日間ですが、連鎖販売取引の場合は20日間となっており、違反行為があった場合はその期間経過後のクーリングオフも有効とされます。
無限連鎖講とは
連鎖販売取引に似た取引で無限連鎖講と呼ばれるものが存在します。会員になることを勧誘し、他の人を勧誘したらその会員費の一部がもらえるという仕組みでネズミ算式に下位の会員が増加していく仕組みであることからネズミ講とも呼ばれております。連鎖販売取引と異なる点は実際に商品または役務を取り扱わずに会員費だけが動くという仕組みです。連鎖販売取引は特定商取引法の規制のもとで行われる場合は合法であるのに対し、無限連鎖講は無限連鎖講防止法によってそれ自体が違法となっており、3年以下の懲役、300万円以下の罰金またはこれらの併科が科され、勧誘者も20万円以下の罰金が規定されております。
コメント
本件でARIIX社は健康食品や化粧品などの商品を他の人にも勧誘して販売した場合報酬がもらえると言って勧誘していたとされます。このような取引は特定商取引法の連鎖販売取引に該当します。しかし同法で求められる氏名等の明示や書面の交付を行わず、また数人で執拗に契約を迫ったとされ、消費者庁は同社に業務停止命令と同社役員の宮城氏に業務禁止命令を出しております。以上のようにいわゆるマルチ商法には現在かなり厳格な法規制が置かれており、事実上禁止されているような状態とも言われております。また上で取り上げたネズミ講は1970年代に急激に増加し、事例によっては被害者数100万人以上、被害総額1900億円というものまで出現し社会問題化した経緯があります。消費者に顧客の紹介や新規会員の勧誘を募る場合にはこれらの法規制を念頭に、違法とならないかを慎重に判断することが重要と言えるでしょう。
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