ブシロードがゲームクリエイターを提訴、秘密保持契約について
2021/01/20 契約法務, 民法・商法, エンターテイメント
はじめに
ブシロードは8日、カードゲーム制作委託先である「スタジオ池っち」と同社代表である池田芳正氏を相手取り、東京地裁に提訴する方針であると発表しました。3度にわたり秘密保持契約に違反し情報発信していたとのことです。今回は秘密保持契約について見ていきます。
事案の概要
ブシロードの発表などによりますと、同社のカードゲーム商品である「フューチャーカードバディファイト」の原作を「スタジオ池っち」の池田芳正氏に2015年頃まで委託していたとされます。同製品では作品の世界観に与える影響が極めて大きいことから同氏との間で契約終了後も秘密保持および許諾なき情報の不開示を約束していたとのことです。しかし同氏はこれまで2度にわたってSNSやYoutubeなどで情報発信を行ったとされ、文書での契約遵守と謝罪をうけていたとされます。それにもかかわらず再度、同社の許諾なく製品の画像等を動画で配信していたとのことです。ブシロード側は話し合いでの解決は困難とし提訴を決定したとしております。
秘密保持契約とは
秘密保持契約(NDA)とは、自社の企業秘密や情報などを取引先や従業員等に提供するに際して外部に漏らしたり、不正に利用することを防止するために締結する契約または条項を言います。製品や部品等の発注、システム管理委託、労務契約などあらゆる契約に盛り込まれており、法務部では目にしない日はないほど一般的に利用されております。特許申請予定の機密情報や重要な顧客情報などが漏洩した場合相当の損害を被る可能性があります。そういった被害を事前に防止するためこのような契約や条項が利用されます。
秘密保持契約の内容
秘密保持契約は相手方に秘密情報を開示する前までに締結しておく必要があります。そしてその内容はどちらかが一方的に決定するのではなく双方の協議によって決定する必要があります。その主な内容は①秘密保持の対象となる情報、②秘密保持の期間、③秘密保持義務者の範囲とされておりますが、それに加えて秘密保持の目的や秘密情報の定義、目的外使用の禁止や秘密保持義務の内容、秘密情報の返還や廃棄、知的財産権の扱い、情報漏洩時の措置や裁判管轄などの条項が盛り込まれることが一般的と言われます。
秘密保持に関する裁判例
取引相手が秘密保持契約に違反して情報を漏洩させた場合はどうなるのでしょうか。こういった場合、相手方に漏洩しないよう求めたり、差し止めや損害賠償を求め提訴するといったことが考えられます。自社で開発した撹拌造粒装置の製造委託していた相手方が取引終了後他社の委託により同製品を作成したという事例で大阪地裁は、本件秘密保持契約で被告側が負う秘密保持義務は契約終了後5年間継続することに照らし、原告が秘密とするものを一律に対象とするものではなく不正競争防止法における営業秘密の定義と同様とするのが相当としております(大阪地裁平成24年12月6日)。つまり不正競争防止法が規定する①秘密管理性、②有用性、③非公知性の要件を満たしたものでなければ裁判上秘密情報として保護されるのは困難ということです。
コメント
本件でブシロード側の発表によりますと、同社が著作権を保有するカードゲーム「バディファイト」の画像等が制作委託先である池田芳正氏によって無断で動画などに投稿されていたとされます。同社では同氏との間で秘密保持契約を締結していたとされ同契約違反、著作権侵害等を理由に提訴するとしております。本件のカードゲームなどホビー関連の製品はどのような新製品が出るかといった点はユーザーにとって極めて影響が強く、非公知のものであれば秘密情報と認められる可能性は高いと考えられます。しかし秘密保持違反による訴訟ではその損害の立証が容易ではないと言われております。以上のように秘密保持契約は非常に頻繁に利用されておりますが、それだけで完全に秘密漏洩を防ぐことは困難と言えます。今一度自社の秘密保護体制を見直しておく事が重要と言えるでしょう。
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