東京地裁が大成、鹿島に有罪判決、独禁法の「公共の利益」について
2021/03/03 独禁法対応, 独占禁止法, その他
はじめに
リニア中央新幹線工事をめぐる大手ゼネコン4社による談合事件で東京地裁は1日、大成建設の元常務執行役員と鹿島の元専任部長および法人としての両社に有罪判決を出していたことがわかりました。いずれも懲役1年6月執行猶予3年とのことです。今回は独禁法の不当な取引制限と公共の利益について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、大成建設、鹿島、大林組、清水建設の大手ゼネコン4社は2015年2月以降、リニア中央新幹線の品川、名古屋両駅新設工事の3工区で事前に受注予定業者を決め、工事を発注したJR東海に提出する見積もり価格調整するなどしていたとされます。このような受注調整は2017年12月まで続いていたとされ、公取委は昨年2020年12月22日に独禁法違反により4社に排除措置命令、大林組に約31億円、清水建設に約12億円の課徴金納付命令を出しました。また東京地検は法人としての4社と大成、鹿島の元幹部を起訴しておりました。
不当な取引制限とは
独禁法2条6項によりますと、事業者が他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、もしくは引き上げ、または数量、技術、製品、設備もしくは取引の相手方を制限する等、相互にその事業活動を拘束しまたは遂行することにより公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限することを不当な取引制限としております。典型的にはカルテルや談合が該当します。違反した場合には公取委は排除措置命令を出すことができ(7条)、また課徴金納付命令が出されることとなります(7条の2)。また刑事罰として5年以下の懲役または500万円以下の罰金、法人には5億円以下の罰金が規定されております(89条1項1号、95条1項1号)。
具体的要件
(1)意思の連絡と相互拘束
不当な取引制限の要件としてまず「意思の連絡」と「相互拘束」が挙げられます。意思の連絡は当事者間での合意を意味し、黙示的なものも含むとされております。相互拘束は事業者同士が互いに共通の目的達成のために事業活動を拘束し合うことを言います。たがいに価格をこれ以上下げない、値上げするなどといった方針を明示的または黙示的に確認しあうといた場合を言います。なお談合の場合は基本合意と個別調整があればこれらの要件に該当するとされます。
(2)競争制限
上記の行為要件に該当し、さらに「一定の取引分野」における「競争の実質的制限」に該当する必要があります。「一定の取引分野」とは市場を意味し、基本的には需要者から見た代替性の観点から画定されると言われております。そして競争の実質的制限とは、ある程度自由に価格、品質、数量その他の条件を左右することによって、市場支配力を形成することを言うとされます(東京高裁昭和26年9月19日)。自分達である程度自由に市場における価格等をコントロールできる状態と言えます。
公共の利益
2条6項では不当な取引制限の要件として「公共の利益に反して」という文言が含まれております。この意味は自由競争経済秩序の維持それ自体であり訓示的な意味合いしかないとの考え方と、違法性阻却事由であるとの考え方などがあります。後者の説に立つ場合、公共の利益を保護するためであったと認められると違法ではなくなることとなります。この点判例は、カルテル禁止の利益とカルテルによって守られる利益を比較衡量して一般消費者の利益確保と国民経済の健全な発達促進に反しない場合には違法性が阻却され、不当な取引制限に該当しないとしました(石油カルテル刑事事件最判昭和59年2月24日)。
コメント
本件で東京地裁は、4社は希望する工事を確実に受注し、価格競争を避けて利益を確保することが動機であったとし、見積り価格を高止まりさせて公共の利益に反し、建設業界への信頼を著しく損ない、社会に与えた影響も大きいとして有罪判決を言い渡しました。以上のように同業者等が互いに話し合ってどこが受注するかを互いに決定していくといった合意は基本合意に該当し、それに基づき実際に受注者の決定やその受注に向けての協力行為は個別調整に該当し不当な取引制限に当たることとなります。上記のように「公共の利益」のためであると認められた場合には違法性はなくなるとされますが、実際にそれが認められた例は現段階では無いと言われております。今一度自社の取引状況を確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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