有名天ぷら店が和解、酷似看板への対策について
2021/03/04 コンプライアンス, 著作権法, 商標法, 不正競争防止法, その他
はじめに
大阪の有名天ぷら店「天ぷら大吉」(堺市)が、店名や看板が酷似する天ぷら店「大阪天ぷら大吉北新地」(大阪市)に対し店名や看板の使用差し止めなどを求めていた訴訟で25日、和解していたことがわかりました。被告側は店名や看板の使用はやめるとのことです。今回は酷似する店名や看板が使用されている場合の法的対策について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告側の「天ぷら大吉」は大阪堺市、大阪市北区、大阪市浪速区に店舗を経営していたところ、昨年9月から大阪市北区の北新地で「大阪天ぷら大吉北新地」が開業したとされます。店名や看板が酷似しており、SNSで原告側の系列店舗と誤解したファンによる投稿が相次いでいたとのことです。原告側は店の看板などを模倣して客を奪ったとして大阪地裁に差し止めなどを求め提訴しておりました。
不正競争防止法による規制
不正競争防止法2条1項1号によりますと、他人の商品等表示に類似するものを使用し他人の営業と混同を生じさせる行為は「不正競争」の一種として禁止されております。これは周知表示混同惹起行為と呼ばれ、このような不正競争行為によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者は侵害の停止や予防、廃棄、除去などを求める差し止め請求を行うことができ(3条1項、2項)、また損害賠償を求めることもできます(4条)。これは他人が営業努力によって獲得した知名度や評判にタダ乗りして不当な利益を得ることを防止することが目的と言われております。
周知表示混同惹起行為の要件
周知表示混同惹起に該当するためには「商品等表示」「周知性」「類似性」「混同のおそれ」を満たす必要があると言われております。商品等表示とは人の業務にかかる氏名、商号、商標、標章、商品の容器、包装その他商品または営業を表示するものとされます。店の看板などもこれに含まれます。周知性とはその商品等表示が消費者の間で広く認識されている状態を言います。類似性は行為者の商品等表示が権利者の商品等表示と同一かまたは類似していることを言います。その判断にあたっては、取引の実情のもと需要者が両者の概観、呼称、観念に基づく印象、記憶、連想等から全体的に類似したものと受け取る恐れがあるかを基準とするとされます(最判昭和58年10月7日)。混同のおそれについては消費者に混同を生じさせる行為であればよく、実際に混同が生じたことまでは不要と言われております。
その他の法律による保護
看板等の模倣行為については不正競争防止法以外にも商標法や著作権法による保護が考えられます。店名や看板、ロゴなどについては特許庁に出願することによって「商標」として保護を受けることができます。これにより類似商号を排除することが可能な場合があります。ここでの類似性については、外観、称呼、観念の3要素を基準に判断されるとされます。また著作権法による保護も考えられますが、看板の図柄の著作物性が問題となった事例で「広告看板の図柄としてありふれたものにすぎない」とし応用美術に属するものであって純粋美術と同視し得るものではないとして著作物性を否定した例があります(勝沼ワイナリー事件、東京地裁平成25年7月2日)。
コメント
本件で原告側の「天ぷら大吉」は大阪市内では広く消費者に知られており周知性のある商品等表示に該当するものと考えられます。そして「大阪天ぷら大吉北新地」の店名と看板デザインは黒い筆文字によるフォントも酷似しており、需要者からは天ぷら大吉の北新地店と認識されうるものと思われます。以上のように店名や看板、店舗のデザイン等は不正競争防止法などによって保護されております。飲食店ではこのように有名店舗に酷似した店舗を出すといった事例が非常に多いと言われており、実際に紛争に至る例は全体のごく一部とされます。自社の運営する店舗と類似・酷似する店舗が現れた際にはどのような対応を取ることができるのかをあらかじめ把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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