ネット中傷に対応、「侮辱罪」厳罰化の動き
2021/09/01 インターネット問題, 刑事法, その他
はじめに
インターネット上の誹謗中傷への対策として、法務省が「侮辱罪」を厳罰化するため刑法を改正する方針を固めていたことがわかりました。新たに懲役刑等が加えられる見通しとのことです。
今回はインターネット上でたびたび問題となる侮辱罪と名誉毀損罪について見ていきます。
法改正の経緯
近年インターネット上での個人や法人に対する悪意ある書き込みが社会問題となっております。昨年もフジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さん(当時22)がインターネット上で執拗な誹謗中傷を受け自殺するという事件が発生しました。
ツイッターに「きもい」などと書き込んでいた男2人は侮辱罪で略式命令を受けましたが、9000円の科料にとどまっておりました。
これを受け法務省ではプロジェクトチームを発足し、現状の不特定多数からの中傷の危険や、拡散してネットに残り続けるといった被害の深刻化を踏まえ、侮辱罪の厳罰化に踏み切ったとされます。来月の法制審議会で諮問される見通しです。
名誉毀損と侮辱
刑法230条1項によりますと、
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処するとされております。
死者の名誉を毀損した場合は、虚偽の事実を摘示した場合のみ罰せられます(同2項)。
そして231条では、事実を摘示しなくても、
公然と人を侮辱した者は、拘留または科料に処するとされております。
なお拘留とは1日以上30日未満の刑事施設での拘置を意味し(16条)、科料とは1000円以上1万円未満ということです(17条)。以下具体的に要件を見ていきます。
成立要件
名誉毀損罪の一番の要件は「公然と事実を摘示」することです。
「公然」とは不特定多数の人が認識しうる状態を言います。伝えた相手が特定少数の場合でも、不特定多数に伝播する可能性があれば公然性が認められると言われております(大判大正8年4月18日)。
「事実の摘示」とは人の社会的評価を低下させるような事実を告げることを言います。摘示の方法に制限は無く、口頭や文書やインターネットなどあらゆる方法が該当します。
そして「名誉を毀損」するとは、社会的評価を害するおそれのある状態を発生させれば足りるとされます(大判昭和13年2月28日)。
つまり人の社会的評価を下げるような事実を不特定多数に広まる可能性のある状態にすることで成立します。
そして侮辱罪における「侮辱」とは人の人格を蔑視するような行為を言います。例えば、「バカ」や「クズ」「ブス」といった暴言などです。名誉毀損との違いは「事実の摘示」の有無と言われております。
公共の利害に関する特例
名誉毀損は一定の要件のもとに違法ではなくなる場合があります。
刑法230条の2によりますと、名誉毀損行為が、公共の利害に関するものであり、その目的がもっぱら公益を図ることにあり、摘示された事実が真実であることが証明された場合には罰しないとされます。
たとえばある企業が違法行為を行っているといった摘示をしても、それが公益を図るための告発であり、真実性が証明された場合には違法とはならないということです。これは民事でも同様に損害賠償義務が免除されるということです。な
お真実の証明ができなくとも、真実だと誤信したことに相当な理由がある場合は名誉毀損の故意が無く不成立とされております(最判昭和44年6月25日)。
コメント
以上のように名誉毀損と侮辱罪はその要件上の違いは事実の摘示の有無だけだとされます。しかし法定刑は名誉毀損が3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金であるのに対し、侮辱罪は30日未満の拘留または1万円未満の科料とかなりの差があります。
そこで法務省では侮辱罪の法定刑を1年以下の懲役・禁錮、または30万円の罰金に強化する法改正の方針を固めております。これによりインターネット上での誹謗中傷に一定の歯止めがかかるものと予想されます。
他方、名誉毀損や侮辱は社内で多くの社員の前で罵るなどの場合でも成立する可能性があります。自社がインターネット上で中傷されている場合だけでなく、社内でもそのような事態が発生しないよう周知していくことが重要と言えるでしょう。
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