三菱UFJが1500億円を上限に取得へ、自己株式について
2021/11/26 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
三菱UFJフィナンシャル・グループは15日、発行済株式の2.33%に当たる3億株を上限に自己株式を取得すると発表しました。期限は11月16日から来年3月31日までとのことです。今回は自己株式取得について見ていきます。
事案の概要
三菱UFJの発表によりますと、同社は15日開催の取締役会で上限を3億株、取得価額1500億円とする自己株式を取得する旨決議したと発表しました。資本の健全性や成長のための投資との最適バランスを図り、配当を基本とした株主還元の充実を目的とし、発行済株式総数の5%を超える自己株式は原則として消却する方針としております。取得した3億株は今月30日に消却する予定とのことです。現在同社の発行済株式総数は約128億株で自己株式数は約7億株となっております。
自己株式の取得
発行した株式を会社自身が取得することを自己株式の取得と言います。自己株式の取得は株主から買い取る場合の他に譲渡制限株式の譲渡を承認せずに会社が買い取る場合や、取得請求権付株式の取得、取得条項付株式の取得、相続人からの買取、単元未満株式の買取、M&Aによる取得などが挙げられます(会社法155条)。自己株式の取得はある意味出資の払い戻しの側面があることから、分配可能額を超えてはならないという財源規制が原則として課されることとなります(461条1項各号)。例外として単元未満株式の買取、M&Aによる取得の場合は財源規制の適用除外となります。これらの場合は株主の投下資本回収を保証する必要があり、また別途債権者異議手続きが行われることが理由とされます。
自己株式取得のメリット
自己株式の取得は市場に流通する株式を自社で回収することから、増えすぎた自社株を減少させ株価を上げるという効果があります。逆に放出することによって高騰しすぎた自社株の株価を抑え適切な価値に調節することも可能です。これにより市場にあふれて下落した自社株を回収することでライバル企業等による敵対的買収の標的とされることを防ぐ防衛手段としても利用できます。またM&Aの対価として利用することもできます。吸収合併や株式交換などを行う場合、消滅会社や株式交換完全子会社の株主等に対価を交付することとなりますが、その際に新たに株式を発行することなく自社株を提供することができます。既存株主の持ち株比率の低下を避けることができるということです。ストックオプションに利用することも可能です。
自己株式取得の手続き
自己株式の取得は特定の株主からまたは不特定の株主から取得する方法の2通りあります。不特定の株主から取得する場合は株主総会の普通決議が必要となります(156条)。この場合全株主を対象に通知または公告し、売渡の申し込みを受けることとなります。また上場会社の場合は市場取引や公開買付によることも可能です。特定の株主を対象として買い取る場合は株主総会の特別決議が必要となります。この場合、対象となっていない株主は株主総会の5日前までに自己も対象に加える旨を請求することが可能です(160条3項)。ただしこの売主追加請求は市場価格以下で買い取る場合や相続人から買い取る場合または定款でその旨定めている場合は不可能となります。なお取締役会設置会社で会計監査人設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は取締役の任期が1年としている場合、定款に定めることで自己株式取得の決議を取締役会で行うことができます(459条1項1号)。
コメント
本件で三菱UFJは市場における資本の価値や株主の投資バランスを図ることを目的に1500億円、3億株を上限として自社株を買取り消却するとしております。同社は定款で取締役会決議により自己株式ができる旨の定めを置いているとされ、すでにその決議を経ているとのことです。今回の自己株式取得はM&Aの対価やストックオプションに利用することを想定されていないことから3億株は全て消却される予定です。以上のように市場で増えすぎた自社株を回収し株価を安定させたり、組織再編の対価に利用する目的で自己株式を取得することが可能となっております。旧商法下ではごく限られた場合にのみ例外的に認められていた自己株式取得は現行会社法では原則許容されております。どのようなメリットがありどのような手続きが必要かを予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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