ビル型納骨堂住民訴訟で大阪高裁が差し戻し、住民の原告適格について
2022/03/01 訴訟対応, 行政法
はじめに
住宅密集地にあるビル型納骨堂の経営を許可したのは違法だとして周辺住民が許可の取消を求めていた訴訟で、大阪高裁が地裁に差し戻す判決を出していたことがわかりました。住民の原告適格が認められたとのことです。今回は行政処分取消訴訟の原告適格について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、大阪府門真市の宗教法人が大阪市淀川区にビル型納骨堂建設を計画し、2017年2月に大阪市が経営許可を出していたとされます。しかし大阪市の規則ではこれらの施設の「おおむね300メートル以内に学校、病院、人家がないこと」が条件となっているとされ、周辺住民は大阪市が出した経営許可は違法であるとして取消を求め提訴していたとのことです。一審大阪地裁は昨年5月、住民に取消訴訟を起こす原告適格がないとして訴えを却下しておりました。周辺住民の生活環境は「法律上保護される個別的な利益」には該当しないことが理由とされます。
行政処分と取消訴訟
国や自治体などの行政機関が行う許可や認可、あるいはそれらの取消といった行政処分に問題があり、それらの取消を求める訴訟を取消訴訟と言います(行政事件訴訟法3条2項)。それらの処分の根拠となっている法令に違反してなされていた場合など、処分が違法である場合、当事者はこの取消訴訟で争うこととなります。逆に言うと行政処分は仮に違法であったとしても、取消訴訟で取り消されない限り有効であり(一般に公定力と呼ばれます)、それ以外のところではもはや無効を主張しても意味がないということです。そのため行政機関が行う行為が行政処分に該当するか否かはかなり重要な問題となります。今回は詳細については割愛しますが、特に行政機関内部で行われる通達や認可、民間との売買行為、用途地域指定、中止勧告、内定通知、住民票への記載行為など様々な行為が処分に該当するかで争われてきております。
第三者の原告適格
許可や認可を受けた者、またはそれらの取消処分を受けた者といった行政処分の当事者は原則として当然に取消訴訟を提起することができます。この出訴する資格のことを原告適格と呼びます。原告適格が有無については、取消を求める「法律上の利益を有する」かで判断されることとなりますが(9条1項)、当事者は原則として認められるということです。問題となるのは行政処分の当事者ではなく、周辺住民などの第三者に原告適格が認められるかという点です。本来当事者ではない第三者である住民は行政処分とは関係なく、取消すだけの利益も無いように思えます。しかし大規模な都市開発や廃棄物処理場や斎場の建設など、周辺住民にとっては大きな影響を受ける場合もあり、それが関係法令に違反して出された許認可に基づく場合は原告適格を認める意味も大きいと言えます。
原告適格の判断基準
それではどのような場合に第三者に原告適格が認められるのでしょうか。判例では「法律上の利益を有する者」について、処分の根拠法令が「不特定多数の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含む」場合に認められるとしております(最判昭和53年3月14日)。その判断にあたっては根拠法令の趣旨・目的、それらを共通にする関係法令の趣旨・目的、考慮されるべき利益の内容・性質、違反した処分により受ける侵害や態様・程度などを考慮すべきとされております(9条2項)。つまりその行政処分によって侵害される住民の利益を法令が一般的公益として吸収してしまわずに保護しようとしているかということです。
コメント
本件で一審大阪地裁は、納骨堂の周辺に住む人の生活環境などは、法律上保護される個別的な利益に当たるとは言えず、周辺住民に原告適格は無いと判断しました。一方で大阪高裁は市の規則におおむね300メートル以内の住人の生活環境を、個別的な利益として保護する目的であるのは明らかとして、一転住民の原告適格を認めました。以上のように処分の当事者ではない第三者の原告適格の判断は根拠となっている関係法令についての非常に複雑で微妙な判断を要します。本件のように一審と二審で判断が分かれることも少なく有りません。またこれらの問題に関する条文や判例も非常に難解でわかりにくいものとなっております。周辺住民が反対する可能性のある事業については、行政に対する対応だけでなく、周辺住民の理解を求める努力をすることや、万一訴訟となった場合に住民に提訴資格があるのかといったことも予め検討して対応しておくことが重要と言えるでしょう。
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