不正会計で東芝に賠償命令、金商法の粉飾決算規制について
2022/03/11 金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法
はじめに
東芝の不正会計問題を巡り、株価下落によって損害を受けたとして個人株主らが同社と旧経営陣に賠償を求めていた訴訟で10日、福岡地裁は同社に計約1450万円の支払いを命じていたことがわかりました。旧経営陣への請求は退けたとのことです。今回は粉飾決算を巡る金商法の規制を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、2015年4月、証券取引監視委員会への内部通報により東芝の不適切会計が発覚し、第三者委員会の調査によって大規模な不正会計が明るみにでたとされます。調査では1200億円とされていた同年3月期の純利益は378億円の純損失であったとし、約1500億円余りに登る粉飾決算が発覚、金融庁は同年12月に同社に対し約73億円の課徴金納付命令を出しました。これを受け全国の同社個人株主が東京、大阪、高松、九州、沖縄で同社および旧経営陣に対し損害賠償を求め集団訴訟を提起しており、原告数は計約450人、請求額は総額約19億円に登るとのことです。
粉飾決算に対する規制
有価証券届出書や有価証券報告書などの開示書類に虚偽の記載を行うといった行為を粉飾決算と言います。その形態は様々ですが、一般に架空売上の計上、架空在庫の計上、子会社に対する架空売上の計上、グループ内での循環取引などが挙げられます。金商法では、「有価証券報告書もしくはその訂正報告書であって、重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した場合」には10年以下の懲役または1000万円以下の罰金となっております(197条)。また法人に対しても7億円いかの罰金となります(207条1項)。金商法以外でのこのような粉飾決算をもとに、配当可能額が無いにもかかわらず違法配当した場合は5年以下の懲役、500万円以下の罰金とされております(会社法963条5項2号)。また粉飾された決算書類を使用して金融機関を欺き、融資を受けた場合に詐欺罪に問われた事例も存在しております。
粉飾決算に関する民事責任
金商法では17条~24条の5で粉飾決算に関わった会社や役員、監査法人等に損害の賠償に関する規定が置かれております。これは虚偽の記載を信用して被害を受けた投資家などの救済を図る趣旨とされます。虚偽記載のある目論見書や資料を使用して有価証券を取得させた場合や虚偽記載を行った場合、提出時の役員や監査法人、引受証券会社等は損害賠償の責任を負い、例外的に無過失を証明した場合には免責されます。これは本来の不法行為による損害賠償の場合と異なり、原告が過失の存在を証明するのではなく、被告側が過失の不存在を証明する責任を負っているということです。そして発行会社については虚偽記載などについて故意や過失がなくても賠償責任(無過失責任)を負っているとされます。
課徴金納付命令
金商法では以前にも取り上げたインサイダー取引などの不公正取引の他に、本件のような有価証券届出書・有価証券報告書などの不提出や虚偽記載、TOB開始公告の不実施、TOB届出書の不提出や虚偽記載、大量保有報告書の不提出や虚偽記載、情報伝達・取引推奨行為などが課徴金納付命令の対象となっております。粉飾決算での課徴金額は募集・売出総額の2.25%(株券等の場合は4.5%)となっております。また公認会計士法でも、故意または相当の注意を怠り、重大な虚偽、錯誤または脱漏のある財務書類を適正なものとして証明した場合は課徴金の対象となっております。この場合の課徴金額は、故意の場合は監査報酬の1.5倍、重過失の場合は監査報酬相当額となっております。
コメント
本件で原告側である東芝の株主は同社が作成した虚偽記載のある有価証券報告書によって投資判断を誤り、損害を受けたとしております。福岡地裁は2009年、11年、12年度の3期について重要な虚偽記載があり、配慮すべき注意義務を怠ったとして原告のうち17人に対し計約1450万円の支払いを命じました。以上のように有価証券報告書などに虚偽の記載をするなど、粉飾決算を行った場合には金商法上の罰則や行政処分の他に、それによって損害を受けた投資家などへの民事責任も負うこととなります。その際には証明責任が転換されていたり、会社には無過失責任が負わされているなど厳しいものとなっております。一般に粉飾決算は投資家や融資している金融機関等への信用を繋ぎ止める目的で行われると言われておりますが、最も信用を失う行為とも言えます。今一度社内で周知して虚偽記載を防止していくことが重要と言えるでしょう。
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