積水化学工業、難燃性ウレタン樹脂組成物に関する特許権侵害訴訟で和解
2022/05/06 知財・ライセンス, 特許法
はじめに
積水化学工業は、日本アクアが製造・販売する建築物用不燃断熱材「アクアモエン」に関して、特許権侵害差止等請求を行っていましたが、2022年4月14日に和解が成立したことを発表しました。なお、本件訴訟では、裁判所は特許権侵害の有無については判断を示していません。今回は特許権侵害事件の発生理由から和解成立までの流れを解説していきます。
事件の経緯
積水化学工業は、2020年11月6日、建築物断熱用吹付け硬質ウレタンフォーム「アクアモエン」を製造・販売している日本アクアに対し、「アクアモエン」の製造の差止め等及び約5,171万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に提起したと発表しました。本訴訟は積水化学が保有する難燃性ウレタン樹脂組成物に関する特許権(特許第6200435号)の侵害の有無を争点として、2022年4月まで争われていました。積水化学工業は「知的財産権を重要な経営資源と位置付けており、当社の知的財産権を保護するために、今後も必要な措置を講じていく」と公表資料でコメントしています。
特許権侵害差止請求とは
特許法第68条により、特許権は、特許発明の業としての実施を独占し得る権利として定められています。そのため、権利を有しない第三者が事業として特許発明を実施している場合、特許権の侵害となります。 この場合、特許権者は自己の特許権等を侵害する者に対して侵害の停止又は予防を請求することができます(特許法第100条1項)。
特許庁|特許権侵害への救済手続
第68条
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない
第100条1項
特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
対象となった商品について
「アクアモエン」は建築現場のニーズを反映して生まれた耐炎特性を持つJISA9526規格の建築物断熱用吹付け硬質ウレタンフォームです。建築現場では、新築・改修・解体作業中の火花からウレタンフォームに着火し火災事故に繋がる例が多数報告されています。アクアモエンは、高い耐炎性能を発揮し、約1500度のバーナーを用いた40秒間の燃焼性試験でも、表面が炭化するだけで着火しないことが確認されています。現場や日常の火災リスクから作業員の安全を確保するとして、スーパーゼネコンをはじめ多数の企業に採用されています。ちなみに、同商品は2019年7月10日に特許登録を済ませ、同年7月12日には、建築基準法に定める不燃材料の規定に適合するものであることを国土交通大臣により認定されています。
コメント
積水化学工業と日本アクアは長年協議を重ね、2022年4月14日、遂に和解が成立しました。今回の和解成立を受けて、両者は和解内容の詳細については公表できないことを表明しています。そのため、どのような落としどころが両社間で見出されたかは、第三者からは伺い知れない状況です。
通常、特許権侵害訴訟の和解契約においては下記のような事項が取り決められます。
1-1. 侵害又は非侵害の確認
1-2. 事実の確認
2-1. 侵害行為の停止等
2-2. 侵害品の廃棄等
3. 権利不行使
4. 不争約束
5. 争訟等の処理
6. 許諾
7. 金銭給付
8. 登記登録
9. 不開示
10. 放棄
11. 清算
12. 訴訟費用
※知的財産権訴訟における和解条項例集より
自社が別の特許を持っていても、別の法令による認可・認定を受けていても、権利侵害を主張される可能性があるのが特許権侵害訴訟の特徴です。それだけに紛争発生の予測と予防が難しい分野ではありますが、紛争が発生した場合、長期間にわたる訴訟、多額の損害賠償などの大きなリスクに繋がりかねません。自社の商材が他社の特許権侵害に繋がるものでないか、慎重に慎重を重ねた検討が求められます。
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