テラ株式会社、子会社株の株式買取請求に関する係争の和解成立を公表
2022/07/13 商事法務, 会社法
はじめに
テラ株式会社は、東京大学医科学研究所発のベンチャー企業で、現在、東証スタンダード市場に上場中です。その子会社であるテラファーマ株式会社は、医薬品、医療機器、再生医療等製品等の研究、開発・試験、製造などを手掛けていますが、そのテラファーマの株式について、2020年2月20日、同社の株主1名(以下、「本件株主」)から東京地方裁判所に対し、株式売買価格決定の申立てが行われていました。テラ株式会社は、2022年6月27日、当該係争に関し、本件株主と2022年7月1日付で和解が成立する見込みとなったと公表しました。
これにより、6月27日開催の取締役会にて、和解金として214万3919円を支払うことを決議したとのことです。今回は、この和解に至るまでの経緯について振り返っていくことにします。
株式売買価格決定の申立て
テラ株式会社は2020年1月、子会社であるテラファーマの特別支配株主として、会社法第179条1項の「株式等売渡請求」に基づく株式等売渡請求を実施し、本件株主に対してテラファーマの株式20株分を売り渡すよう求めました。それに対し、本件株主は、テラ株式会社が算定した株式売渡請求に係る株式売買価格、1株当たり0.05円は不当に低廉であり、1株当たりの金額は126万8856円から450万7908円が相当であると主張し、東京地方裁判所に対して売買価格の決定の申立てを行っています。これに対して、テラ株式会社は、利害関係参加人として手続きに参加した上で、同社と本件株主の双方からの鑑定申出を受けて、裁判所が公認会計士である坂上信一郎氏を鑑定人として選任。坂上氏は2021年10月28日付で、本件株式の価値を1株当たり15万5390円と算定しました。
【株式売買価格決定申立 制度】
会社法上、会社及び指定買取人と株式譲渡承認請求者は、株式の譲渡価格を協議により決定するとされています(会社法第144条1項)。しかし、交渉がまとまらないケースも珍しくありません。そうした場合に、裁判所に対し、株式売買価格の決定を申し立てることができる制度が、株式売買価格決定申立制度です(第144条2項)。
株式売買価格を決定する際、裁判所は、譲渡等承認請求時の会社の資産状態その他一切の事情を考慮して、これを決定する旨定められています(第144条3項)。
多くの場合、
(1)裁判所による株価鑑定人の指名
(2)株価鑑定人による株式価値の評価(主に、時価純資産法・収益還元法を活用)
(3)株価鑑定人が作成した株式価値評価書に記載された金額に基づく、裁判所による売買価格決定
という手順で株式売買価格が決定されます。
本件和解の経緯
テラ株式会社は、鑑定人から受領した報告書の内容や裁判所からの和解勧試、株主からの提案を考慮した上で、手続の長期化による事業への影響等も含めて総合的に勘案し、本件は和解による早期解決が最善策と判断したとのことです。その後、2022年7月1日付けで、同社が当該株主に対して解決金214万3919円を支払う内容を含む条件で、和解することを決定しました。
なお、鑑定費用については、300万円をテラ株式会社と本件株主とで半分の150万円ずつ予納し、最終的に本件株主の主張する1株当たり450万7908円と、テラ株式会社が主張する1株当たり0.05円のうち、いずれに近い決定がなされるかによって按分して精算するという条件で合意がなされていたといいます。
和解の具体的な内容
テラ株式会社では、本件株主に対して解決金214万3919円を2022年7月31日までに支払うこととしています。また、解決金の内訳については、対象株式数である20株の売買価格を鑑定人による鑑定結果を踏まえて本件株式の価格を1株当たり15万5390円として算出した合計額である310万7800円に法定利息である43万2707円を加え、さらに前述の条件で鑑定費用を計算した結果、同社が負担した鑑定費用150万円のうち139万6588円について、本件株主が負担すべきこととされたため、その額を相殺により控除して算出しています。
コメント
取引相場のない非上場株式の売買価格の決定は難しく、株式売渡請求等を実施した際に、株主と売買価格で争いになることは珍しくありません。その際に、役立つのが「株式売買価格決定申立」の制度ですが、本事案での鑑定費用が300万円となっているように、一定の費用がかかります。ここに、弁護士費用(主に経済的利益の額を元に算出される)も生じることを考えると、当事者間の交渉のみで売買価格決定に至ることのメリットは小さくないと言えます。株式売買価格の決定の際は、この点を重々念頭に入れながら、相手方と交渉を行うことが重要になります。
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