多くの上場企業で株主が提案、取締役の個別報酬開示について
2022/07/28 総会対応, 会社法
はじめに
3月期決算企業の定時株主総会がほぼ終了し、株主から提案を受けた企業が過去最多の77社に上っていたことがわかりました。そんな中でも特に取締役の個人別報酬額を開示する定款変更の賛成率が高かったとのことです。今回は会社法の報酬規制について見直していきます。
事案の概要
日経新聞の報道によりますと、6月に定時株主総会を開催した上場企業のうち77社で合計292件の株主提案があったとされます。そのうち定款変更に関するものが最も多く184件に上り、次いで剰余金配当や自己株式の取得、自己株式の処分となっているとのことです。定款変更については取締役の個人別報酬開示について、三井金属、世紀東急工業、シチズン時計でいずれも40%前後の賛成を集めたとされます。また国際的な枠組みである「パリ協定」に沿った気候変動への対応を求める提案も増えており、関西電力では36%の賛成を集めたとのことです。近年アクティビストによる株主提案が活発化していると言えます。
取締役の報酬規制
近年企業の役員報酬の透明化を求める機運が高まっており令和元年会社法改正によって報酬規制が強化されました。この改正法は2021年3月1日から施行されております。役員報酬の決定は本来は取締役の業務執行の範囲に属し、取締役会等で決定するものとも考えられます。しかし自らの報酬を自らで決定すると不当に多額の報酬を決定し会社の利益を害することが考えられます。そこで取締役等の報酬については原則として株主総会のコントロールを及ぼす必要があると考えられております。対象となるのは「報酬」だけでなく、賞与や退職慰労金など、職務執行の対価として会社から支払われる財産上の利益全般とされます。以下改正前の規制と改正後の規制について具体的に見ていきます。
改正前の報酬規制
令和元年改正前の会社法では、報酬の額が確定している場合はその額、確定していない場合は具体的算定方法、金銭でないものについてはその具体的内容を定款または株主総会で定める必要があるとされます(361条1項1号~3号)。定款または株主総会で総額を定めておけば、個別の報酬額については取締役会で決定できるとされておりました。そして監査等委員である取締役の報酬についてはそれ以外の取締役のものと区別して定める必要があり、監査等委員である取締役の個別報酬については取締役会ではなく監査等委員である取締役の協議によって定めるとされます(同2項、3項)。監査等委員である取締役は報酬について株主総会で意見を述べることができるとされます(同5項)。
改正後の報酬規制
改正後の報酬規制では、上記改正前の規制に加え次のような規制が追加されました。まず、公開大会社である監査役会設置会社で上場会社である場合、または監査等委員会設置会社である場合は取締役個人別の報酬等の内容についての決定方針を取締役会で決定することが義務付けられます(同7項)。施行日である2021年3月1日以降にこの決定方針を定めずに個人別報酬を決定した場合は無効となります。決定方針の具体的な内容は、報酬の種類ごとの額または算定方法、業績連動報酬の場合はその算定方法、非金銭報酬の場合はその内容と算定方法、報酬等を与える時期または条件等の決定方針、個別報酬の内容の決定方法、その他となっております(施行規則98条の5各号)。また株式報酬やストックオプションについても詳細が規定されました(361条1項3号、4号、施行規則98条の2)。
コメント
近年海外の投資ファンドなどの物言う株主、いわゆるアクティビストによる株主提案が急速に増加しております。その内容は企業統治、資本効率、株主還元、気候変動、経営権など多岐にわたります。最近では大手上場企業の組織再編に関する提案がなされたことも記憶に新しいところです。そして昨今の企業不祥事などから取締役の報酬についての透明化への要望も多く、会社法改正と相まって個人別報酬の開示に関する定款規定の提案が増加しております。上で述べたように改正法では個人別報酬の決定方針の決定が義務付けられており、個別開示までは義務付けられてはおりません。また取締役にとっても自身の具体的な報酬については公になることに抵抗も強いと考えられます。しかし一方で開示がなされた場合はステークホルダー等への透明性のアピールにもなると言えます。改正法の内容と合わせて検討しておくことが重要と言えるでしょう。
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