いきなり!ステーキが社長交代と減資へ、資本金減少について
2022/08/16 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスは12日、創業者の一瀬邦夫社長が辞任したと発表しました。同時に株主優待制度の廃止や資本金減少を予定しているとのことです。今回は資本金減少の手続きについて見直していきます。
事案の概要
日経新聞によりますと、ペッパーフードサービスは「いきなり!ステーキ」での業績回復が遅れ、22年12月期の税引き損益は10億円の赤字となる見込みとされます。前期は3億8700万円の黒字であり、12月期も2億1600万円の黒字を見込んでいたことから、社長の一瀬邦夫氏が業績不振の責任を取り辞任するとのことです。後任には同氏の長男である健作氏が就任し、経営再建のために株主優待制度は廃止するとされます。また11月25日開催予定の臨時株主総会で資本金を現在の47億円から1000万円まで減資を行い、繰越欠損金の填補に当てる予定となっております。
資本金と資本金減少
株式会社の資本金は減少させることができます(会社法447条)。平成17年改正以前は最低資本金制度があり、株式会社は資本金を1000万円未満にすることができませんでした。現在ではそのような制限はなく、資本金を0とすることも可能です(100%減資)。資本金とは計算書類に計上される数字でしかないことから、資本金を減少させたからといって実際に会社の財産が減少するというものではありません。しかし資本金は分配可能額などに影響を及ぼし、会社債権者から見たら資本金は一定の信用の指標ともなります。また会社の規模の基準ともなり、会社法や税法など会社の分類にも影響を及ぼす重要な数字とも言えます。以下会社の資本金減少の手続きについて見ていきます。
資本金減少の手続き
資本金を減少させるには原則として株主総会の特別決議が必要です(447条、309条2項9号)。例外的に定時株主総会で欠損填補する場合は普通決議で可能です。欠損とは剰余金がマイナスになっている状態を言います。また株式発行時にそれにより増える資本金の範囲で減少させる場合は取締役会、または取締役の決定で行うことも可能です(447条3項)。この場合は実質的には資本金が減少しないからです。資本金減少には債権者異議手続きが必要です(449条)。これには例外が無く、必ず行う必要があります。債権者異議手続きは1ヶ月以上の期間を定め、減少の内容と計算書類を広告し、知れている債権者に個別に催告することとなります。官報広告に加え、日刊新聞または電子広告をした場合は個別催告は省略できます。これらの手続きが終了し効力発生日に資本金が減少します。最後にその旨の登記が必要です。登録免許税は3万円となります。
資本金減少のメリット
資本金は上でも述べたようにその額によって各種法令上の会社の扱いが変わる基準となります。まず会社法では資本金の額が5億円以上または負債が200億円以上の会社を大会社と定義しております(2条6号)。大会社は会計監査人の設置が義務付けられます(328条)。さらに大会社が公開会社である場合は委員会設置会社を除き監査役会の設置も義務付けられます。さらに損益計算書の公告義務や連結計算書類の作成義務なども規定されております(440条1項、444条3項)。資本金減少により大会社でなくなると、これらの義務も免れることとなります。そして税制上では資本金の額が1億円以下である場合は軽減税率が適用されたり、800万円までの交際費を全額損金に算入することができ、少額減価償却資産の損金算入、繰越欠損金の控除など優遇措置が規定されております。
コメント
ペッパーフードサービスが運営する「いきなり!ステーキ」は2013年12月に銀座に1号店をオープンして以来急成長を遂げ、2018年11月には全国366店舗にまで拡大しました。しかし急激な店舗拡大による従業員不足と自社店舗同士での客の取り合い、また新型コロナウイルスの影響で2019年12月期は7億3100万円の赤字を計上するなど業績不振に陥り、経営再建が急務となりました。今年12月期の税引き損益が10億円の赤字の見込みとなり一瀬邦夫氏が引責辞任し、株主優待制度の廃止と資本金減少を行うとのことです。資本金は47億円から1000万円に減少する予定とされ、これにより会社法上の大会社でなくなる見込みです。会社機関のスリム化と優遇税制を受けることにより経営再建を図ります。以上のように会社の資本金の額によって各種法令上の扱いが異なってきます。自社の資本金の額が現経営状況に合っていない場合は減資による再建を検討することも重要と言えるでしょう。
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