コロナ雇い止めで元従業員敗訴、雇い止め法理について
2022/09/27 労務法務, 労働法全般
はじめに
京都市の和紙加工会社に勤めていたパート従業員の女性がコロナ禍で雇い止めされたのは不当であるとして、地位確認などを求めていた訴訟で京都地裁は21日、請求を棄却していたことがわかりました。社会的相当性を欠くとは言えないとのことです。今回は雇い止め法理について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、元従業員の女性は2018年8月に1年間の有期契約で採用され、満了後も雇用が継続されていたとされます。しかし新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受けて会社が2020年4月から休業を命じられ、それにともなって女性は同年8月までで雇い止めされたとのことです。女性側は会社が国から雇用調整助成金を受け取っていたことから、雇用を継続できたはずであるとして合理性の無い雇い止めだとして京都地裁に提訴しておりました。会社側は雇い止めの理由を経営難と説明していたとされます。なお会社側は女性の提訴に関する報道で名誉を毀損されたとして反訴しておりましたが棄却されております。
有期雇用の雇い止め法理とは
労働契約法19条によりますと、(1)過去に反復更新された有期労働契約で、その雇い止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できる場合、(2)契約期間満了時に更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められる場合には、雇い止めには客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされております。これを雇い止め法理と言い、対象となる労働者は期間のある労働契約を締結している労働者で、パートやアルバイト、派遣社員や契約社員などが該当します。この雇い止め法理はもともと判例で認められていた考え方ですが、2012年労働契約法改正にともない条文化されました。業務内容や勤務態様、更新手続きの状況などから無期雇用と同様と言える場合、または会社側の説明や勤務の状況から更新されると期待を抱かせた場合は、簡単に雇い止めができないということです。
無期転換ルール
労働契約法18条によりますと、同一の使用者との間で、有期労働契約が5年を超えて更新された場合、労働者からの申出によって無期労働契約に転換されることとなっております。1年契約の場合は5回更新され、6年目に入った時点で申し込むことができます。3年契約の場合は1回目の更新で申し込み権が発生することとtなります。これは法定の要件を満たし、労働者からの申込みがあれば法律上自動的に転換されるというもので、会社側は拒否することはできません。なお無期転換の申込みをせずに有期労働契約を更新した場合、新たな有期労働契約の初日から末日までの間に申し込みをすることができるとされております。
整理解雇の要件
労働者側の理由ではなく、経営不振などの会社側の理由で労働者を解雇することを整理解雇と言います。整理解雇が有効となるための要件は、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)解雇手続きの妥当性の4つと言われております。会社が経営不振で人員を整理しなければ事業を続けられないといった理由が必要で、生産性向上のためといった理由では認められないとされます。そしてその場合でも、役員報酬のカットや配置転換、希望退職募集などまずは解雇回避のための努力が必要です。そして誰を解雇するかの選定も合理的で公平な基準による必要があります。また実際に解雇する際にも該当者と十分に協議をした上で手続きを進めていく必要があります。これらの1つでも満たさなければ解雇権濫用として無効となります。
コメント
本件で元パート従業員の女性はコロナ禍により業績が悪化し、それにより雇い止めされたとされます。女性は会社が雇用調整助成金により雇い止めは回避できたはずであるとして会社を提訴しましたが、京都地裁はそれを退けました。京都地裁は、会社は以前から赤字経営が続いており、そこにコロナの影響で売上が落ち込み、他の従業員も休業や退職をしてもらっており、また助成金も内容や期間も不確定であったとして雇い止めに客観的合理性や社会的相当性がなかったとは言えないとしました。また原告の雇用期間も短く、雇用継続への合理的期待も認められないとしました。以上のように、雇い止めには客観性や合理性のある理由が必要とされます。それはコロナ禍による経営不振の場合でも同様です。また整理解雇をする場合も上記のように4つの要件が挙げられており、それらを満たす必要があります。近年コロナ禍に加え未曾有の円安による業績悪化に陥る企業が増加しております。雇い止めや整理解雇の際にはその要件や手続きを遵守していくことが重要と言えるでしょう。
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