求人サイト記載の月給との差額は未払い賃金?元従業員が労働審判申し立て
2022/10/06 労務法務, 労働法全般
はじめに
求人サイトの募集内容と実際の月給に10万円以上の差があったとして、洋菓子店「マダムシンコ」の元従業員の男性(46)が同洋菓子店の運営会社を相手取り、未払い賃金約200万円の支払いを求め労働審判申し立てを行っていたことがわかりました。今回は労働条件の表示と変更について見ていきます。
事案の概要
読売新聞などによりますと、元従業員の男性は2021年3月、求人サイト「インディード」を閲覧し、マダムシンコの工場での菓子製造の仕事に応募したとされます。サイトの表示では「月給35万円以上(残業代含む)」と記載されており、人事担当者との面談でも試用期間後の月給は35万円と口頭で説明されていたとのことです。しかし実際には試用期間中は25万円だった月給が、試用期間終了後には約17万円になったとされ、男性は今年春に退職したとされます。会社側は求人サイトでの求人広告と実態が異なっていたことを認めた上で、閲覧者を増やすために給与額を高く表示していたものに過ぎず、雇用契約での労働条件ではないと反論しているとのことです。
労働条件規制
労働基準法15条によりますと、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとしております(1項)。これは労働契約締結後に労使間でトラブルが発生することを防止するのが趣旨です。明示された労働条件が事実と違っていた場合は、労働者は即時に労働契約を解除することができるろされ(2項)、労働者が就業のために住居を変更していた場合、解除の日から14日以内に帰郷する場合は会社はその旅費を負担する必要があります(3項)。またこの明示義務を行った場合は罰則として30万円以下の罰金が科されることがあります(120条1号)。この明示は雇用契約書等によって、書面または電磁的記録によって行う必要があるとされます(労働基準法施行規則5条4項)。
改正職業安定法による規制
今年3月に改正され、10月1日に施行された改正職業安定法によりますと、職業紹介事業者や求人を行う企業、募集受託者、募集情報適用事業者は、求人もしくは労働者の募集に関する情報については虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならないとされます(5条の4第1項)。そして募集に関する情報は正確かつ最新の内容に保たなければならないとし、これらの事業者が広告等により求人情報を提供するときは、正確かく最新の内容に保つための措置を講じなければならないとしております(同2項、3項)。例えば固定残業代を基本給に含めて表示したり、固定残業時間を明示しない、また社内で特に給与の高い者の給与を全ての労働者の給与であるかのような表示が該当されるとされます。
労働条件の変更
会社と労働者の間で締結された労働条件は原則として会社側から一方的に変更することはできません。両者の合意があった場合に労働契約の内容である労働条件を変更することができるとされております(労働契約法8条)。しかしこの変更は不利益変更の場合であり、労働者の利益になるような変更にはこのような制限はありません。不利益変更とは典型的には賃金カットや手当のカットなどです。社会情勢や経営状況の悪化によりやむを得ず賃金削減を余儀なくされる場合もありますが、その場合でも会社側から一方的に変更することはできません。この場合は労働組合がある場合、労組との合意によって労働協約の変更を行い書面に署名または記名押印を行うこととなります(14条)。労組がない場合はやはり原則として個別合意が必要となります。
コメント
本件でマダムシンコの運営会社カウカウフードシステムは求人サイトの募集事項に「月給35万円以上(残業代含む)」と表示し、面談で人事担当者も口頭でそのように説明したとされます。しかし雇用契約書には「基本給16万~25万円」と記載されていたとされます。淀川労基署は労働条件の明示義務違反として同社に是正勧告を出していたとのことです。またこのような表示は上でも述べた改正職業安定法に違反するものと考えられます。同社は閲覧者を増やすために給与額を高く表示していたものに過ぎないとしており、近年同様のトラブルが相次いでいると言われております。現段階では求人サイトでのこのような不正確な表示については罰則は設けられておりませんが、今後法改正によって規制が強化される可能性もあると言えます。求人募集の際には事後のトラブル回避のためにも正確な表示を心がけることが重要と言えるでしょう。
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