馴れ合い防止へ、京都新聞HDの訴訟に株主が参加
2022/10/11 訴訟対応, 会社法, 民事訴訟法
はじめに
京都新聞ホールディングス(HD)が大株主に違法に支払っていた報酬など約5億1000万円の返還を求めている訴訟で、株主の1人が原告側に共同訴訟参加していたことがわかりました。馴れ合い訴訟のおそれがあるとのことです。今回は会社法による会社の訴訟と参加について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、京都新聞HDは2012年5月から21年2月にかけて、大株主で相談役であった白石浩子氏(81)に対し、相談役報酬や私邸管理費など総額で約19億円を支払っていたとされます。第三者委員会は大株主である白石氏に、経営に口を出さないことへの対価として支払っていたものであり、違法な利益供与に当たるとし、同社は計約5億1000万円と遅延損害金を求め提訴しておりました。これに対し同社の株主の1人は、同社と白石氏が癒着関係にあったことから、不透明な和解をするおそれがあるとして、自ら監視役として関与するために共同訴訟参加人として加わったと発表しました。なお同社については会社法違反(利益供与)の容疑で告発もされているとのことです。
会社による訴訟
会社は何人に対しても、株主の権利の行使に関して財産上の利益の供与をしてはならないとされております(会社法120条1項)。これはいわゆる総会屋対策の規定と言えますが、総会屋でなくとも株主の権利行使に対する、会社からの財産上の利益の提供が禁止されます。供与を受けた株主は返還する義務を負い、また供与に関与した役員等も連帯して会社に利益相当額の支払い義務を負うことになります(同3項、4項)。これらの者が任意に支払わない場合、会社は裁判所に提訴して支払いを求めることとなります。この利益供与以外にも、役員の任務懈怠による損害の賠償請求や、分配可能額を超える違法配当の際の株主、役員等への責任追及も同様に会社がこれらの者に対して提訴していくこととなります。
株主代表訴訟
上記のように会社の役員や株主等が会社に責任を負う場合は、本来会社がそれらの者を相手取り提訴することとなります。しかし会社がこれを行わない場合、一定の要件のもとで株主が会社に代わって提訴することができます。これがいわゆる株主代表訴訟です(847条1項)。まず株主から会社の提訴請求を行い、その日から60日以内に会社が提訴しない場合は株主が代わって提訴することができます(同3項)。株式の保有数に制限はありませんが、公開会社の場合は6ヶ月前から引き続け株式を保有している必要があります。なお会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合は会社の提訴を待たずにただちに提訴することが可能です(同5項)。ただしこの株主代表訴訟も、不正の利益を図り、または会社に損害を加えることを目的とする場合は不可となります(1項但し書き)。
訴訟参加
以上のような責任追及の訴えについては、会社や株主は共同訴訟人として、または一方を補助するために訴訟に参加することができます(849条1項)。会社が提訴していた場合は株主が、株主代表訴訟の場合は会社が参加することとなります。会社が提訴した場合だけでなく株主代表訴訟もその判決の効力は会社にもおよび(民訴法115条1項2号)、その結果他の株主もその効力を争うことができなくなるため(最判平成12年7月7日)、馴れ合いによって適切に訴訟遂行が行われないという事態を回避することが趣旨とされております。これらの訴訟が提起された際には、株主等が参加できるよう訴訟告知、または会社による通知・公告がなされます(849条4項、5項)。訴訟参加人は独自に訴訟追行していくことが可能となります。
コメント
本件で京都新聞HDは相談役であった大株主に長年にわたって多額の利益供与を行っていたとされます。会社側はそのうちの約5億1000万円について返還を求める訴訟を提起しております。しかし同社と大株主のこれまでの関係から、真剣に訴訟追行がなされず、不透明な和解がなされるなど馴れ合い訴訟となるおそれがあるとして、同社の株主の1人が共同訴訟参加しております。これにより訴訟参加人である株主も会社と同列で訴訟活動を行っていくことができます。以上のように会社に責任を負う者への訴訟は本来会社が行いますが、行われない場合は株主が代わりに提訴し、また他の株主もそこに参加していくことができます。これによって馴れ合いで終わらせるということの防止が図られております。会社が訴訟をする際には株主からの参加もあり得るという点に留意して準備していくことが重要と言えるでしょう。
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