長崎で被害対策弁護団立ち上げ、販売預託商法について
2022/11/07 コンプライアンス, 特定商取引法
はじめに
勧誘時に事実と異なる説明をしていたなどとして、特定商取引法違反で消費者庁から業務停止命令を受けている「WILL」や同グループの「VISION]、「レセプション」などによる被害に関し、長崎で被害対策弁護団が結成されました。長崎県内での被害総額は約1億5600万円にのぼるとのことです。今回は販売預託商法について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、同社はテレビ電話機能など複数のアプリケーションをセットにした商品「APPパック」や、それらアプリが記録されたUSBメモリーなどを消費者に約60万円で購入させ、同社がそれを借り上げて第三者に利用させるなどして、消費者に賃料など月約2万円を支払うといった販売預託商法を展開しているとされます。それらの勧誘に際して同社では消費者に事実とは異なる内容を告げていたとのことです。また消費者への賃料の支払いは2021年頃から独自の仮想通貨「ビカシーコイン」となり、支払いが遅延したり、換金が困難な状況が続いているとされます。消費者庁は特定商取引法に違反するとして同社らに業務停止命令を出しました。
販売預託商法とは
預託等取引に関する法律(預託法)2条1項によりますと、(1)3ヶ月以上の期間にわたり物品等の預託を受けること及び当該預託に関し財産上の利益の供与を約すること、または(2)物品等の預託を受けること及び3ヶ月以上の期間の経過後に当該物品とうの買い取りを約することを「預託等取引」と言うとされております。貴金属などの販売を勧誘し、代金を受け取った後も品物は消費者に渡さず、預かっていることにし、それを運用するなどとして一定の配当金を提供するといった契約が典型例です。しかしこのような取引は実際には商品やその運用といった事実は無く、配当金の支払いも最初だけで滞るなど詐欺的な悪徳商法であることが多く、過去にも豊田商事事件、安愚楽牧場事件、ジャパンライフ事件などいずれも総額で2000億円以上もの被害を出し、社会問題となっております。そこでこれらの事件を受け、昭和61年に預託法が制定され一定の規制がなされております。
改正預託法による規制
従来の預託法では政令で指定された物品である「特定商品」についてのみ規制の対象となっておりました。その対象は宝石や貴金属類、盆栽、鉢植え等、哺乳類、鳥類、自販機、自動サービス機、動植物の加工品、家庭用治療機器となっておりました。そして新たな被害が生じるたびに後追い的に規制対象を追加してきました。これではどうしても対応が後手に回ることから令和3年の法改正によって特定商品制を廃止し、預託取引を原則として全面禁止としました。例外的に予め内閣総理大臣(消費者庁)の厳格な確認を受けた場合に限り販売預託取引の勧誘や契約の締結が可能となります(9条、14条1項)。これに違反して契約を締結しても当該契約は無効となり、また罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金、またはこれらの併科とされ、法人の場合は5億円以下の罰金が科されることとなります(32条1号、38条1号)。また行政処分も強化されており、1年の業務停止命令が2年に伸長され、さらに役員に対して業務禁止命令が新設されております。
改正預託法による行為規制
事業者が預託等取引の契約を締結する場合、物品の種類や数量、価格、預託期間、供与される財産上の利益、契約解除に関する事項などを記載した書面を相手方に交付する必要があります(3条1項、2項)。また預託取引の勧誘に際しては顧客の判断に影響をおよぼす重要な事実について、故意に告げず、または不実のことを告げることや解除を妨げるために威迫して困惑させるなどの行為が禁止されます(4条1項)。そして業者は預託取引契約に基づく債務、または契約解除によって生ずる債務の履行拒否や不当な遅延なども禁止されます(5条1号、2号)。さらに預託等取引業者は、業務および財産状況を記載した書類を事務所ごとに備え置き、預託等取引に関する帳簿書類を作成保存することも必要とされます(6条1項、2項)。顧客はこれらの書類の閲覧や謄写を請求することができ、原則としてそれを拒否することができません(同3項)。
コメント
本件でWILL他関連会社は、テレビ電話機能などのアプリケーションやそれらが記録されたUSBメモリーを預託取引の対象としておりました。その勧誘に際して、当該商品の開発経緯や世界中で使用され売上が伸びている、リベリア政府の要請で仮想通貨の交換所を設置したなどと虚偽の内容を告知したとされます。消費者庁は特定商取引法違反として業務停止命令を出しておりました。上記のように預託法では令和3年改正以前は特定の商品についてのみ規制の対象とされ、USBメモリーといった新しい取引態様には対応しておりませんでした。今年6月1日の施行からこれらの商品も含め全ての販売預託商法が原則として禁止となっております。さらに罰則や行政処分も強化されております。これらの取引を行うには予め消費者庁の確認を受ける必要があります。以上のように近年消費者に不当な損害を生じさせる取引について規制が強化されております。新しい形態の事業を始める際にはこれらの規制がなされていないか、またどのような手続きが必要かを慎重に確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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