東京高裁、NHKサービスセンターによる定年後の再雇用拒否は有効と判断
2022/12/09 労務法務, 労働法全般
はじめに
東京高裁は、令和4年11月22日、一般財団法人NHKサービスセンターで働いていた職員が定年後に再雇用を拒否されたことは不当であるとして「労働契約上の地位確認」を求めていた訴訟で、再雇用の拒否を有効と認める判決を下しました。今回の記事では、本訴訟の概要をご紹介すると共に、再雇用拒否と解雇法理について考察します。
事案の概要
報道などによりますと、原告となった職員は、一般財団法人NHKサービスセンターが運営するコールセンターで2002年4月から2019年12月まで働いていました。その間、十数回にわたる有期雇用契約の更新、2019年からの無期転換などを経たそうですが、2019年末に60歳定年により退職となっています。職員は、定年退職後の再雇用を希望しましたが、NHKサービスセンター側は雇用継続を拒否。これを不服とした職員が、横浜地方裁判所に対し、労働者としての地位の確認を求める訴訟を提起しました(併せて、コールセンターへのハラスメント電話への対応が不十分であったとして、安全配慮義務違反に基づく慰謝料請求訴訟も提起)。
これに対し、横浜地裁は、NHKサービスセンター側が行った雇用継続の拒否には、客観的合理的理由及び社会的相当性があるとして、再雇用拒否を有効としました。
そして、今回、東京高裁は、
●労働者には就業規則所定の解雇事由があったこと
●労働者の人事評価が極めて低かったこと
●労働者はハラスメント電話への対応ルールを守らず、電話先で口論となるトラブルを複数回引き起こしていたこと
●それにも関わらず、改善指導に従う姿勢がなかったこと
などを挙げ、NHKサービスセンター側が再雇用を行わない客観的・合理的な理由があったと判示し、一審を維持しました。
現行の再雇用制度
従業員の定年を定める場合、まず、その定年年齢は60歳以上とする必要があります(高年齢者雇用安定法第8条)。その上で、定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する必要があります(高年齢者雇用安定法第9条)。
「継続雇用制度」とは、雇用している高年齢者を、本人が希望すれば定年後も引き続いて雇用する「再雇用制度」などの制度を言います。平成25年度以降、希望者全員が対象となっています。
本件では、60歳の定年を迎え再雇用を労働者が再雇用を希望したところそれを企業に拒否され、上記規定に照らし法的問題があるのではないかということで訴訟が提起されていました。
再雇用の拒否と解雇法理
そもそもの前提として、再雇用を行う場合、「65歳までの雇用契約」等のように有期雇用契約が締結されるケースが大多数です。
最一小判平24.11.29は、社内規程等に定める“継続雇用基準”を満たしている労働者については、雇用継続の期待に合理的な理由が認められ、労働者を継続雇用することなく雇用終了とすることに客観的に合理的で社会通念上相当といえる事情が認められなければ雇止めは違法となると判断しています。
この判例は、実質的に「有期雇用契約の雇止め法理」を参照しながら、「解雇権濫用法理(労働契約法16条)」を類推適用したものに等しいと見られていました。
また、こうした判例法理は平成24年改正後の高年齢者雇用安定法においても妥当するものと考えられて来ましたが、今回の判決を見る限り、やはり改正高齢者雇用安定法にも妥当することが確認できます。
なお、雇用継続の期待に合理的な理由が認められる場合とは、「契約更新の意思確認」や「契約内容の説明」が行われており、雇用更新手続が形式的、機械的なものになっている場合をいいますが、本件のような無期雇用契約から有期雇用契約に移行する場面では、継続雇用を期待させる事業主の言動や他の労働者の雇止めの有無等の事情が重要な判断要素となるでしょう。
労働者を継続雇用することなく雇用終了とすることに客観的に合理的で社会通念上相当といえる事情とは、本件で東京高裁が挙げたような、就業規則所定の解雇事由があり人事評価も極めて低かった等の事情が例として挙げられます。
コメント
65歳定年の義務付けや70歳までの雇用努力義務などを見る限り、国として、今後も、高年齢労働者を積極的に雇用するよう企業に求めていく方針と考えられます。そのため、今後、様々な企業で今回のような、定年退職者の再雇用にまつわる労務紛争が生じるおそれがあります。
(1)社内規程等に定めた“継続雇用基準”が法律と実態の双方に合致したものとなっているか
(2)有期雇用契約の契約更新の手続きが形骸化していないか
(3)管理者は継続雇用を期待させる安易な言動を行っていないか
(4)対象者の人事評価を客観的に証明できる書類・データを保存できているか
法務として、これらの点を今一度、確認してみるとよいのではないでしょうか。
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