建設中のバイオマス発電所で死亡事故/建設事故と安全配慮義務
2023/02/10 労務法務, コンプライアンス, 民法・商法, 労働法全般, エネルギー関連
はじめに
静岡県御前崎市で建設中だったバイオマス発電所で事故が発生しました。報道などによりますと、作業員11人が一酸化炭素中毒などの症状を訴えており、1人が死亡、1人が意識不明の状態だということです。
建設中だった発電所は木質のバイオマス燃料をボイラーで燃やし、その蒸気で発電する仕組みでした。事故のあった日は、その「バグフィルター」と呼ばれるばいじんをろ過する装置につながる大型ダクトの中で溶接作業をしていて、突然作業員2人が倒れたとされています。また、最初に倒れた2人の周辺で工事をしていた複数の別の作業員も2人を助けようとして事故に巻き込まれた可能性があるということです。
発電所は今年7月の運転開始を目指していましたが、現在は工事を中止しています。
建設作業中の一酸化炭素中毒事故
建設作業中の一酸化炭素中毒事故は、東京で年間約5件前後発生しています。事故の発生が即座に生命・身体に甚大な被害を及ぼす可能性が高いのが特徴で、厚生労働省をはじめ、各所で注意喚起が行われています。
事故時の一酸化炭素の主な発生源は、内燃機関を有する機械の稼働による排気ガスとなっており、具体的には、発電機やミニユンボ・路盤カッター・コンプレッサー、そして、今回の事故でも使用されていた溶接機等が挙げられます。
建設作業時には、粉塵の拡散防止や近隣への配慮の観点から、これらの機械を自然喚起できない屋内で使用せざるを得ないことがリスクを高めています。
さらに、冬場は暖房機器を併用する機会も多く、これらの機器が室内酸素を奪うことから、一層、一酸化炭素中毒の発生の危険が高まると言われています。
こうした背景もあり、労働基準局では、「建設業における一酸化炭素中毒予防のためのガイドライン」を策定し、一酸化炭素中毒防止のために使用者が講ずべき措置を通達しています。
その内容は、作業責任者の選任から、元方事業者による管理、作業管理、作業環境管理、警報装置、呼吸用保護具、健康管理、労働衛生教育に及び、具体的かつ精緻なものとなっています。
建設作業中事故の責任の所在
今回の一酸化炭素中毒事故に限らず、建設現場は重大事故と隣り合わせにあります。作業員の頭上への部品落下事故、崩落事故、転落事故など、後をたちません。事故発生時に常に問題となるのが、責任の所在です。多くの人員を要する現場では、元請けとなる工事会社が人員確保のために下請け会社に依頼するなど、複数の当事者が事故に絡むケースが多いとされています。
建設現場においても、企業には「安全配慮義務」が課されています。これは労働契約法第5条で明記されていて、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定されています。
では、どう言った場合に、発注者・元請け・下請け事業者に責任が追及されるのでしょうか。
原則として、実作業を行う下請け事業者が安全配慮義務を負うとされています。もっとも、安全配慮義務は「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間」において信義則上認められます(最高裁昭和50年2月25日判決)。具体的には、以下のような場合には、元請け事業者が作業現場の安全管理を実質的には行なっていたとみなされ、安全配慮義務が発生することがあります。
・下請け事業者の作業員が元け事業者の管理する工具などを使用している
・元請け事業者の指揮監督を実質的に受けている
・作業内容が元請け事業者の作業員とほぼ同じ
・元請け事業者と下請け事業者の作業員との間で実質的な使用関係がある
・元請け、下請けの作業員の間で間接的な指揮命令関係がある
仮に元請け事業者の社員の過失が原因で下請け事業者の作業員などが事故で怪我や死亡してしまった場合、元請け事業者は、民法715条1項に基づき使用者責任を追及される可能性があります。
なお、発注者においても、元請業者と同じように、信義則上安全配慮義務を負うことがあります。発注者は、労働安全衛生法第3条第3項により、「施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように配慮しなければならない。」とされており、例えば、発注者が指定した施工方法の不備や設定した工期の短さ等が原因で事故が発生した場合には、責任を問われる余地が出て来ます。
裁判例
発注者、元請け事業者などの責任をめぐり、過去にも裁判となっています。
三重県、津市が発注した道路工事の側溝の掘削作業中、石積みの壁が崩落し、作業員男性が採掘面との間に左足を挟まれ、切断するという事故がありました。男性は発注者である市を相手取り、安全確保の義務があったとして治療費や慰謝料などの支払いを求めて提訴しました。
市は「安全確保の義務は一義的には業者にある」などと主張していましたが、裁判所は、事故前日に現場を確認した市職員が崩落の危険性を認識していたのに具体的な安全対策や工事の一時中止を指示しなかったなどと指摘し、市の過失を認定し、賠償金の支払いを命じました。
市は控訴したものの、敗訴。約9300万円を男性に支払っています。
しかし市は賠償金の支払い後、その負担について元請け事業者と争うことに。裁判では、市から壁について安全対策をするように指示されていたにもかかわらず、元請け事業者がそれを怠ったとして過失を認定。その一方で、市に対しても危険性を認識しても具体的な対策を指示しなかった上、対策状況の確認をしていなかったなどの理由で監督権限不行使の過失を認定。市の過失割合は2割となりました。
コメント
ちょっとしたミスが生命・身体の損害に繋がりかねない建設現場での事故。事故は起きない、起こさないことが何よりも大切です。
自社が建設工事に関わる際は、発注者・元請け・下請けなど、自社の立場を踏まえ、どの範囲で安全配慮義務を負うのかを自覚しつつ、果たすべき責任を漏れなく果たす必要があります。そのために、現場担当者らに対する労働衛生教育の充実が求められます。
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