aikoさん所属事務所の元取締役逮捕、特別背任とは
2023/02/21 会社法, 刑事法
はじめに
歌手のaikoさんが所属する事務所の元取締役の男がおよそ1億円の損害を事務所に与えたとして逮捕されていたことがわかりました。グッズ販売を巡る背任容疑とのことです。今回は会社法が規定する特別背任について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、aikoさんが所属する事務所「Buddygo」の元取締役千葉篤史(56)容疑者は2016年9月からおよそ2年半の間に、グッズを購入する際に知人の会社を仲介して水増し請求させ、同事務所におよそ1億円の損害を与えた疑いが持たれているとされます。グッズはaikoさんのツアーなどで販売されるタオルやTシャツなどで、千葉容疑者が水増しした分の9割を受け取っていたとのことです。千葉容疑者は会社法の特別背任の容疑で逮捕されました。同容疑者は警視庁の取り調べに対し、「会社法違反の行為をしていたつもりはない」と容疑を一部否認しているとされます。
背任罪とは
刑法247条によりますと、「他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とされております。他人から事務処理を任されている者が、その職務に背いて自分や第三者の利益を図ったり、またその他人に損害を与えるといった犯罪です。その本質は委託者の信頼関係を侵害して財産上の損害を与える点にあると言われております(大判大正3年6月20日)。なお似たような犯罪として横領罪というものが存在します。どちらも委託者の信頼関係を裏切るという点で共通しますが、横領罪は預かっている物を自分のものにしたり処分するといった行為に限定されますが、背任罪は委託者に損害を及ぼす行為が広く含まれます。また横領罪は自分の利益を目的としますが、背任罪は自分だけでなく第三者の利益も含みます。
背任罪の要件
背任罪の要件は一般に、(1)他人のためにその事務を処理する者、(2)自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的(図利加害目的)、(3)任務に背く行為、(4)本人に財産上の損害を加えたこと、の4つに分けられるとされます。他人のためにその事務を処理する者とは、他人の事務をすべき法的義務を負う者を言い、契約や法令、その他監修や事務管理などからも発生するとされます。任務に背く行為とは、その事務処理者として信義則上当然に行うべく期待される行為しなかった場合を言うとされます。典型的には不正融資や、架空請求をさせるなどの場合が当たります。「損害」とは既存財産の減少だけでなく、将来得ることができたであろう利益の喪失も含まれると言われております(最判昭和58年5月24日)。図利加害目的とは、主として自己または第三者の利益を図る場合とされ、委託者の利益を図る目的も有ったとしても背任罪は成立するとされております(最決平成10年11月25日)。
会社法の特別背任とは
会社法960条によりますと、会社の取締役など一定の地位にある者が背任行為を行い、会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております。上記の刑法犯に比べ大幅に法定刑が加重されております。会社経営において重要な地位にある者の背任行為は、会社にとってより重大な損害を招く危険性があり、その責任の重さから厳罰化されております。特別背任の主体となるのは、取締役や監査役、会計参与などの役員から、発起人、支配人、清算人など会社を運営する上で重要な地位にある者が広く含まれております(同1項、2項各号)。またこれらの者以外でも、これらに該当する者に働きかけ、または唆して特別背任に当たる行為をさせた場合は、その者も共犯が成立すると言われております(最決平成20年5月19日参照)。
コメント
本件でaikoさんの所属事務所の元取締役である千葉容疑者は、グッズを発注するに際して、知り合いである会社に水増し請求させ、水増し分の9割を受け取っていた疑いが持たれております。これが事実であった場合、事務所の取締役という事務処理を委託されている者が自己および第三者の利益を図る目的で会社に損害を及ぼしたと言えることから、背任罪が成立する可能性は高いと言えます。また水増し請求をさせた知り合いの会社も共犯が成立する可能性は高いと考えられます。以上のように、会社の役員や一定の重要な地位にある者の背任行為はかなり思い刑が規定されております。またそれに関与した者も同様です。よくある事例としては不正融資や回収見込みのない貸付、担保を取らない貸付、不動産鑑定士が実際よりも大幅に高く不動産評価するといった行為などが挙げられます。今一度これらの点を確認しつつ社内で周知することが重要と言えるでしょう。
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