モラハラ訴訟で織田信成さんに逆に賠償命令、提訴側の名誉毀損リスク
2023/03/08 コンプライアンス, 訴訟対応, 刑事法
はじめに
フィギュアスケート元五輪代表の織田信成さんがモラハラを受けたとして関西大学の元コーチ濱田美栄さんに賠償を求めていた訴訟で、逆に賠償命令を受けていたことがわかりました。濱田さん側が同訴訟で反訴していたとのことです。今回は提訴側の名誉毀損リスクについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、織田さんは2017年4月から関西大学アイススケート部の監督に就任しましたが、織田さんは同大学の濱田コーチから練習方法や練習時間などについて反対されたり、挨拶しても無視されたり陰口を言われるなどのモラハラを受けたと主張しているとされます。これにより織田さんは体調を崩し、2019年9月に監督を退任し、同年11月に濱田コーチを提訴したとのことです。その際織田さん側は、それまでの経緯を自信のブログに投稿し、記者会見で濱田コーチのモラハラを訴えて折りました。これに対して濱田コーチ側はモラハラの事実はなく、織田さんの記者会見などは名誉毀損に当たるとして330万円の損害賠償を求め反訴を提起しました。
モラハラとは
今回争点の一つとなっていたモラルハラスメント(モラハラ)とはどのようなものでしょうか。一般にモラハラとは倫理や道徳に反した嫌がらせを言うとされます。パワハラと違い厳密な定義は存在しませんが、ほぼパワハラと同様とされ、パワハラに準じて判断されていると言えます。パワハラとの違いは、パワハラは一定の立場による行為とされますが、モラハラは立場は関係なく倫理に反する行為とされます。ここでパワハラとは、(1)職場において優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の職場環境が害されるものと言われております。優越的な関係とは上司など職務上の地位が上位である場合だけでなく、逆に知識や経験が豊富な部下が上司や同僚に対して行う場合も含まれると言われております。業務上必要かつ相当な範囲については言動の目的や経緯、状況、業種、業態、業務内容、言動の態様や頻度などから社会通念に照らして判断されます。
名誉毀損の要件
名誉毀損の要件についても簡単に確認しておきます。刑法230条によりますと、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する」とされております。「公然」とは不特定多数の者が知りうる状態にすることを言います。少数の者に口頭で話すといっただけでも広まる可能性がある以上該当します。「事実を摘示」とは、単に「バカ」「クズ」といった中傷ではなく、「上司と不倫している」「横領している」「前科がある」といった具体的な事実を示すことを指します。その上で相手の社会的評価を低下させたら名誉毀損が成立します。事実の摘示の有無が侮辱罪との違いと言えます。
提訴会見のリスク
会社の従業員等がパワハラを受けた、またはセクハラされたなどとして会社や上司を相手取り提訴した際、多くの場合で記者会見などが開かれます。これに対し被告側はこういった会見自体が名誉毀損に当たるとして逆に提訴することがたびたび見られます。このような場合に原告側に名誉毀損が成立するかについて最高裁は、「その行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、当該行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、仮に当該事実が真実であることが証明されなくても、…真実と信ずるについて相当の理由があるときは…故意又は過失がなく、不法行為は成立しない」としております(最高裁昭和41年6月23日)。これは刑法230条の2の違法性阻却の規定によるもので、通常の名誉毀損に関する民事訴訟でも基準とされております。また提訴自体が不法行為となる場合については、「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」場合とされます(最高裁昭和63年1月26日)。
コメント
本件で大阪地裁は、濱田コーチが織田さんと対立し、モラハラ行為を行ったと裏付ける客観的資料が存在しないとしてモラハラ行為を認めませんでした。また逆に織田さんが自信のブログや会見で濱田コーチのハラスメント行為を批判したことは濱田コーチの指導者としての資質に対する信頼を傷つけたとして名誉毀損を認めました。モラハラの存在を証明できず、またモラハラの存在を信じるにつき相当な理由が認められなかったものと考えられます。以上のようにパワハラやセクハラなどによる提訴の際、会見やSNS等での公表は逆に名誉毀損となる場合があります。最近でもご当地アイドルが事務所によるパワハラで自殺したとする訴訟で、逆に原告側が名誉毀損で賠償が命じられております(東京地裁令和5年2月28日)。相手を訴える場合、または逆に訴えられた場合には、別途名誉毀損についても留意していくことが重要と言えるでしょう。
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