東京地裁、不正会計問題で東芝旧経営陣に賠償命令
2023/04/03 商事法務, コンプライアンス, 会社法
はじめに
株式会社東芝とその株主が不正会計問題をめぐり、歴代の社長など旧経営陣あわせて15人に賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所は3月28日、5人に対し総額およそ3億円の賠償を命じました。この不正会計問題で旧経営陣の賠償責任が認められたのは、これが初めてです。
東芝の会計不正問題とは
2015年、証券取引等監視委員会から工事進行基準案件について開示検査を受けたことをきっかけに明るみになった東芝の不正会計問題。2008年度から2014年年度(4~12月期)までの長期にわたり利益操作が行われたとされる事件です。
「インフラ事業における工事進行基準」「映像事業の経費計上」「半導体事業の在庫評価」「パソコン事業の部品取引」の各分野で不正が行われ、その総額は7年間で2200億円にも上りました。
背景には2008年のリーマンショックによる経営悪化で過去最大の赤字になったことに加え、2011年3月の東日本大震災で当時の主力事業の一つだった原子力発電所事業における事故などが挙げられています。
第三者委員会の調査報告書によると、上層部が「チャレンジ」とうたい、過剰な利益目標を設定し挽回しようとした結果、部下たちが不正会計処理を行うようになったといいます。また、工事損失引当金の計上をすることで原発事業全体の損益が悪化すると懸念し、承認しなかったという事情もありました。
この不正問題を受けて、金融庁は平成27年に課徴金として過去最高の約73億7000万円の納付を命じています。また、金融機関などが損害賠償を求める訴訟を37件提起しています。
こうした背景から、東芝とその株主は、会社が多額の損害を被ったとして、歴代の社長を含む旧経営陣15人に対し、合計32億円の賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起していました。
報道によると、判決では、アメリカの地下鉄に使う電気機器の納入や、高速道路のETCの更新工事、それにアメリカの原子力プラントの建設工事の3件について、会計処理が違法だったと認定されたといいます。
その上で、東京地裁は「違法な会計処理を中止させたり是正させたりする義務を怠った」とし、会社が訴えていた元社長・元副会長・元副社長の3人と、株主が訴えていた別の元副社長2人の合計5人の責任を認め、総額で3億円にのぼる賠償金の支払いを命じました。
粉飾決算について
不正会計、赤字決算を黒字決算であるかのよう見せかける「粉飾決算」。では、粉飾決算を行うことで、どのような罰則がありえるのでしょうか?会社の規模によって異なりますが、可能性があるのは以下の通りです。
■刑事罰
(1)違法配当罪(会社法第963条)
粉飾決算を行って本来はすることができない違法配当(=タコ配当)を行った取締役は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金又は両方が科されます。
(2)特別背任罪(会社法第960条)
取締役等が粉飾決算により自己又は第三者の利益を図りその任務に違背して会社に損害を与えた場合は、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金又は両方が科されます。
(3)有価証券報告書虚偽記載罪(金融商品取引法第197条)
有価証券報告書の重要な事項に虚偽の記載をして提出した場合には、「有価証券報告書虚偽記載罪」として10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金又は両方が科されます。
(4)銀行に対する詐欺罪(刑法246条2項)
銀行から融資を受ける際に粉飾決算した決算書を提出すると、詐欺罪となることがあります。
■民事責任
(1)会社法第462条
取締役が粉飾決算により違法に利益配当を行った場合には、取締役は金銭等の交付を受けた者と連帯して違法に配当した利益を会社に賠償しなければなりません。
(2)会社法第429条
取締役が粉飾決算により計算書類等の重要事項に虚偽の記載をし、そのために第三者に損害を生じた場合には、取締役等役員はこの第三者に対してその損害を賠償すべき責任を負います。
(3)金融商品取引法第24条の4
取締役が有価証券報告書の重要な事項に虚偽の記載等をし、これを知らないで有価証券を取得した者に損害を生じた場合には、この損害を賠償すべき責任を生じます。
(4)債権者からの損害賠償請求
粉飾決算を行っていた会社が倒産し債権の回収が困難となった場合には、取締役等は債権者に損害賠償請求をされることがあります。
このほかに行政罰もあります。金融商品取引法174条の4では、「重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている」有価証券報告書等を提出した場合、①600万円と②発行する株券等の市場価額の総額×10万分の6のうち大きい金額の課徴金を国庫に納付しなくてはならないとされています。
一方で、有価証券報告書の虚偽記載などの違反行為を、処分が行われる前に自ら報告すると、課徴金を50% に減額する制度(法第185条の7)もあります。
コメント
創業150年近い老舗企業の東芝。日本の経済成長に貢献し、誰もが知る大企業が起こした過去最大級の不正会計問題は、発覚からおよそ8年がたった今も、その余波がささやかれ続けています。
発覚した不正会計の中には、経営トップらが不正を認識しながら中止ないし是正しなかった事例、目標必達のプレッシャーにより利益の嵩増しを行わなければならない状況に現場を追い込んだ事例などがあったといいます。
メンバーを数値目標で管理し、メンバーが目標を達成するとマネージャーの評価も上がるという評価制度を採用する企業も少なくないと思います。実際、目標必達のプレッシャーを強くかけることで数字が一時的に伸びる傾向があるのも否定できない事実です。
しかし、コンプライアンス違反の大半が、社内における目標必達のプレッシャーを背景に発生しています。「数字へのプレッシャーがコンプライアンス違反の温床となる」という認識を社内で共有する必要があります。
【関連リンク】
株式会社東芝 第三者委員会 調査報告書
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