兵庫県警が特別警戒対策室を設置、会社法の利益供与と総会屋対策について
2023/05/17 総会対応, コンプライアンス, 会社法
はじめに
兵庫県警は15日、県内企業の定時総会の集中期を前に「株主総会特別警戒対策室」を設置したことがわかりました。総会屋による不当要求の防止を目的としております。今回は会社法の利益供与規制と総会屋対策について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、兵庫県警は15日、県警本部内の暴力団対策課に株主総会特別警戒対策室の看板を掲げました。同対策室は組織犯罪対策局長をトップとし、約300人耐性で総会屋などの動向の把握や情報収集を行い、企業から要請があった場合は株主総会会場の警備などに当たるとされます。兵庫県内では5月に8社、6月に74社が定時株主総会の開催を予定しており、6月30日まで県内の総会屋対策や取締を強化していく予定とのことです。なお愛知県警でも同様の総会特別警戒本部を設置し、約300人耐性で警戒に当たるとされます。
会社法の利益供与規制
会社法120条1項によりますと、「株式会社は、何人に対しても、株主の権利…の行使に関し、財産上の利益の供与…をしてはならない」としております。株主総会の議事進行の妨害などをしないよう、金品を提供するといった行為が典型例と言えます。このような行為は利益供与と呼ばれ会社法で禁止されており、違反した場合には利益供与をした取締役等に対し3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されることとなります(970条1項)。この規定は総会屋対策の一環として1981年の商法改正で導入され、その後幾度かの法改正に伴い罰則が強化され、適用対象も拡大されてきました。総会屋対策に主眼を置いていると言えますが、会社財産の浪費防止と会社経営の健全化を図ることが趣旨とされ、総会屋でなくとも株主の権利行使全般に適用されます。
利益供与の要件
ここで利益供与の要件をおさらいしておきます。利益供与は「何人に対しても」と規定されているように、対象は株主に限定されておりません。株主以外の者に金品の提供を要求されたり、そもそも株主とならないことを条件として金品が要求されると言った場合もあり得るからです。「株主の権利の行使い関し」の株主の権利とは自益権・共益権のいずれも含まれるとされ、議決権の行使、株主提案、株主総会の運営、株式の取得請求、株主代表訴訟などあらゆる株主の権利の行使または不行使が該当すると言われております。そして「財産上の利益」を無償で提供した場合や著しく少ない対価で提供した場合には株主の権利の行使に関して供与されたものと推定されます(同2項)。この財産上の利益は無償で提供する場合はもとより、売買など対価を得て提供する場合も含まれます。その財産の種類としては財産的価値のあるものとされており、人の欲望を満たすあらゆるものが含まれるとされる刑法の贈賄罪よりも範囲は狭いとされております。なおこの財産の提供は会社または子会社の計算で行われる必要があり、取締役等が自腹で供与した場合は該当しません。
総会屋対策
株主総会での総会屋対策としては、上記利益供与を行わないこと以外には、役員の席と株主の席との間に十分な距離を置くことや特定の株主がマイクを独占できないようワイヤレスではなくスタンドマイクを使用すること、議長の指示に従わない場合は退場を求めることなどを警備員の配置も含めて入念にリハーサルしておくことが効果的と言えます。そして同時に基準日株主の中に総会屋と思しき人物や反社会的組織の構成員が入り込んでいないかを事前にチェックすることも重要と言えます。このような反社チェックの方法としては、最寄りの警察署、暴力団対策課、公益財団法人暴力団追放運動推進都民センターや、その他「日経テレコン」「日本信用情報サービス」などの民間データベースでの照会も有効です。
コメント
警察庁の統計では1987年では約1700人確認されていた総会屋も40年近く経過した現在では10分の1に減少したとされております。総会屋が最も勢力を拡大していた当時では年間3億円にのぼる供与を企業から受けていた総会屋もいたとされ社会問題となっておりました。その後暴対法や商法の規制、定時総会の6月集中開催などの総会屋対策によって現在の数にまで減少しましたが、今なお無くなったわけではありません。また近年京都新聞の大株主への多額の利益供与事件など総会屋以外への利益供与事例も見られております。利益供与は株主の権利行使に関して行われる限りあらゆる場面で問題となり得ます。誰がどのような場合に、誰に対して行うことが違法となるのかを今一度確認し、今年の定時総会に臨むことが重要と言えるでしょう。
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