日本語学校の留学生受け入れ禁止処分の執行停止、仙台地裁が認める決定
2023/08/16 行政対応, 訴訟対応, 行政法
はじめに
人権侵害などを理由に留学生の受け入れ禁止処分を受けている仙台市内の日本語学校が執行停止の申し立てを行っていた問題で仙台地裁が認める決定を出していたことがわかりました。停止期間は一審判決までとのことです。今回は行政処分の執行停止について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、仙台市の日本語学校「未来の杜学園」(青葉区)の日本語科が2017年頃から2021年7月頃まで外国人留学生に対し、就労のため退学際に違約金を支払うとした誓約書を提出させていたとされます。出入国在留管理庁は人権侵害に当たるとして今年7月10日、同校に対して5年間の留学生受け入れ禁止処分を出したとのことです。学校側は実際に違約金をもらったケースはないとして同月、仙台地裁に処分の取消しを求める訴えと処分の執行停止を申し立てていたとされます。仙台地裁は9日に処分の執行停止を認める決定を出しました。
行政処分と執行不停止
企業の事業活動などに法令上の問題があった場合、監督官庁などの行政庁から業務停止命令や許認可取消しなどの行政処分を受けることがあります。それに不服がある場合は審査請求や取消訴訟を提起することが可能です。しかし行政処分はこれらの審査請求や訴訟が提起されても効力に影響はなく、原則として執行は停止しないとされております(行政不服審査法25条1項、行政事件訴訟法25条1項等)。このような不服申し立てで逐一停止していたのでは行政目的が達成できず、また処分を受けた者による濫用のおそれがあるためです。また行政事件訴訟法44条は民事保全法による仮処分を排除しており、処分差止の仮処分によって行政処分の執行を止めることもできないとされております。そこで一定の場合にその救済として執行停止の手続きが用意されております。
行政処分の執行停止
行政事件訴訟法25条1項では、処分の取消しの訴えを提起しても、処分の効力、処分の執行、手続きの続行を妨げられないとしております。しかしその2項では、取消しの訴えの提起があった場合において、処分により生じる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は申立により決定で執行停止ができるとしております。執行停止の要件としては、(1)取消訴訟の係属、(2)重大な損害を避けるため緊急の必要があること、(3)執行停止しても公共の福祉に重大な影響がないこと、(4)本案について理由がないとみえる場合でないこととなっております。重大な損害を生じる否かについて裁判所は、損害の回復困難の程度を考慮し、損害の性質、程度、処分の内容および性質を勘案するとしております(同3項)。外国人に対する強制退去処分や、社名の公表など執行されてしまってはもはや取り返しがつかないといった場合の救済措置と言えます。
内閣総理大臣の異議
執行停止の申し立てがなされた場合、内閣総理大臣は裁判所に対して異議を述べることができるとされます(27条1項)。この異議は執行停止の決定がなされた後でも可能とされます。異議の理由として、執行を停止すると公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるという事情を示す必要があります(同3項)。この内閣総理大臣からの異議があった場合、裁判所は執行を停止することができず、すでに執行停止の決定を出している場合はこれを取り消さなければならないとされます(同4項)。裁判所に対する強力な措置と言えますが、この異議は「やむをえない場合」でなければ述べることができず、異議を述べた場合は次の国会で報告しなければならないとされております(同6項)。この内閣総理大臣による異議は司法権への干渉であり違憲であるとの指摘もあり、廃止も検討されましたが平成16年改正では結局廃止されず存続しております。
コメント
本件で出入国在留管理庁から5年間の留学生受け入れ禁止処分を受け、これに対して執行停止の申し立てがなされました。仙台地裁は学校側に生じる経済的損失は大きく救済すべき緊急の必要性があるとして取消訴訟の一審判決まで執行停止を決定しました。日本語学校にとって留学生の受け入れは事業継続の生命線であることから、緊急の必要性が認められたのではないかと考えられます。以上のように行政処分に対して不服申立てや取消訴訟を提起してもそれだけでは処分の効力や執行を止めることはできません。また民事保全法による仮処分も排除されており注意が必要です。さらに根拠法令によっては独自の不服申立て制度が用意されている場合もあります。行政の処分に対していつまでになにができるかを慎重に把握して対処していくことが重要と言えるでしょう。
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