自社株売却の不正推奨、IRジャパン元副社長に有罪判決
2023/10/13 金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法, 金融・証券・保険
はじめに
株式会社アイ・アール ジャパンホールディングス(以下、「IRジャパン」)の元副社長が、会社が業績予想の下方修正を公表する直前に、会社の株を売却するよう知人に勧めたとして金融商品取引法上の「取引推奨の罪」に問われていた裁判で、10月5日、東京地方裁判所は元副社長に有罪判決を言い渡しました。
株下がるから…情報公開前に取引勧告
コンサルティングファーム、M&Aアドバイザリーファームとして知られる東証プライム上場企業、IRジャパン。同社の元副社長は2021年3月30日ごろ、会社が業績予想の下方修正をするという重要事実を知り、公表前の2021年4月4日から15日にかけて、IRジャパンの株を保有していた知人女性2名に対し、対面またはLINEメッセージにて、株の売却を勧めたとされています。
証券取引等監視委員会(SESC)によると、副社長からの勧めを受け、知人女性の1人は合計約9000株を代金計約1億4800万円で売り抜け、もう1人は計2000株を代金計約3200万円で売り抜けたといいます。
株式会社アイ・アールジャパンホールディングス株券に係る取引推奨事件の告発について(SESC)
その後、4月16日にIRジャパンが「21年3月期の売上高が予想を14億2000万円下回る」旨を公表したところ、株価は翌営業日に約3000円下落、終値は前日比15%以上下落しました。
IRジャパンは2022年6月1日、証券取引等監視委員会(SESC)からの調査を受けた際、副社長への嫌疑を認識。副社長は同年6月3日付けでIRジャパングループの全役職を辞任したということです。
当社前代表取締役副社長の逮捕について(株式会社アイ・アールジャパンホールディングス)
一連の行為により、元副社長は、今年6月7日に、金融商品取引法違反(インサイダー取引規制違反)を公訴事実として起訴されていました。そして、10月5日、東京地方裁判所は元副社長に対し、懲役1年6か月、執行猶予3年の判決を言い渡しました。
報道などによりますと、裁判所は元副社長が起訴内容を認め、役員を辞任したことなどから、執行猶予が相当と判断。しかし、知人女性に損失の回避を勧めたことなどについては「金融商品市場の公正性、健全性や投資家の信頼を害する悪質な犯行」と指摘し、「上場会社の役員としての責任ある立場の自覚を欠き、悪質で身勝手な犯行だ」と断罪したということです。
当社前代表取締役副社長に対する東京地方裁判所の判決に関するお知らせ(株式会社アイ・アールジャパンホールディングス)
取引推奨規制違反とは
元副社長が問われていた、金融商品取引法違反の取引推奨の罪。平成25年の金融商品取引法改正で「情報伝達・取引推奨行為の規制(金融商品取引法第 167 条の2)」として導入されました。
[対象となる行為]
重要事実を知った会社関係者(元会社関係者を含む)が「他人」に対して、重要事実の公表前に売買などをさせることで他人に利益を得させ、又は損失を回避させる目的で情報伝達・取引推奨を行うこと。
重要事実や公開買付けの情報自体を伝達しなかったとしても、利益または損失回避のために取引を推奨すれば、取引推奨規制違反となります。
[刑事罰・課徴金]
会社関係者が情報伝達・取引推奨規制に違反し、それにより他人が重要事実の公表前に株式等の売買をした場合、当該会社関係者についても刑事罰や課徴金の対象になるとされています(金融商品取引法第197条の2第14号15号、第175条の2)。
・刑事罰
5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科
両罰規定として法人に対して5億円以下の罰金刑(法207条1項2号)
コメント
今回の有罪判決を受けて、10月6日、IRジャパンは元副社長に対し損害賠償等請求訴訟を提起したと発表しました。副社長が行った一連の不法行為によりIRジャパンが被った損害に関し、会社法第423条1項・民法第709条に基づき賠償請求するものです。不正を行った役員がどのような顛末を迎えるのか、今後の動向に注目が集まります。
【参考リンク】
情報伝達・取引推奨規制に関する Q&A(金融庁)
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