旧統一教会が100億円預託を提案、供託制度について
2023/11/09 債権回収・与信管理, 民事訴訟法
はじめに
旧統一教会が被害者への補償の原資として最大100億円を国に預ける考えを表明したことについて、政府は受け入れない方針であることがわかりました。法的根拠がないとのことです。今回は供託制度について概観していきます。
事案の概要
文科省に解散命令請求がなされている旧統一教会は7日、元信者らに補償が必要となった場合の原資として、最大100億円を「特別供託金」として国に預ける方針を明らかにしました。裁判所による解散請求が確定するまでには数年かかる可能性があり、それまでに教団の資産が海外に移転されるなどして散逸することが懸念されており、教団の資産を保全する制度を創設すべきとの声があがっております。それを受け教団側は会見を開き、「おわび」と60億~100億の範囲で賠償にあてる資金を国に預ける用意がある旨発表しました。解散請求と財産保全の法案阻止が狙いと見られております。しかし国側は法的根拠が無く応じられないとしております。与党は被害者救済法案を今国会に提出する見通しです。
供託制度とは
供託とは、金銭や有価証券などの財産を供託所に保管させ、これを受け取る権利のある者に受け取らせることによって法的な目的を達成する制度を言います。たとえば賃貸人と借り主との間で家賃の金額について争いが生じ、これまでの金額では賃貸人が受けとらなくなった場合、借り主はとりあえず家賃を供託することによって債務不履行による損害金や契約解除といった事態を免れることができます。弁済したくても受け取ってもらえない、またはその他の理由で履行できないといった場合に国が代わりに受け取り、弁済したこととする制度と言えます。その他にも不測の事態に備えて一定の金額を予め供託させておき、いざ損害が発生した場合はそれを補償の原資とするといった場合もあります。
供託の種類
供託は大きく分けて、(1)弁済供託、(2)保証供託、(3)執行供託、(4)没取供託、(5)保管供託があります。弁済供託は債権者が弁済の受領を拒否している場合、受領が不能の場合、債務者の過失なく債権者が分からない場合、債権者が受領しない意思を明確にしている場合に利用できます。保証供託はたとえば宅建業者や旅行業者といった特定の業者が営業活動によって顧客に損害を発生させた場合に備えて補償の原資として一定の金銭の供託が義務付けられるというものです。執行供託は複数の債権者が1つの債権を差し押さえた場合などに、裁判所が公平に配当するために債務者に弁済金を供託させるといった場合です。選挙に立候補する際に一定額の供託を求められるのが没取供託です。そして銀行や保険会社などの業績悪化時の財産散逸防止のために一定額を保管する目的でなされるのが保管供託です。このように供託は様々な種類に分けられます。
供託手続きの流れ
供託の手続きはまず、供託所で配布される供託書に必要事項を記載し、必要な添付書面を添えて供託金を納入します。納入は現金を取り扱っている供託所には直接窓口へ、そうでない場合は日銀またはその代理店に納入します。供託がなされたら被供託者である債権者に供託通知がなされます。通知を受けた債権者が供託金を受け取るには、供託所に備え付けられている供託物払渡請求書に記載し、印鑑証明書などを添付して供託所に提出します。供託金の受け取りは預貯金口座への振込または小切手となります。振込の場合はおおむね1週間から10日程度で振り込まれます。小切手の場合は日銀で換金することとなります。なおこれらの手続きはオンラインで行うことも可能となっております。
コメント
本件で旧統一教会は会見で、元信者への被害補償の原資として最大で100億円を国に供託する案を提示しました。しかし政府関係者は受け入れる法的根拠が無いとして受け入れない考えを示しました。また教団の表明を受けて新たに立法することもないとしております。以上のように供託には様々な種類が存在しますが、いずれも法令によって規定されており、法令に規定がある場合にのみ供託が可能です。供託はする場合も、還付を受ける場合も手続きが厳格に規定されており、供託所での審査で場合によっては却下されることもあります。どのような場合に供託を利用できるのか、またどのような書類や手続きが必要かを予め把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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