五輪談合事件でイベント会社側が裁判長に申し立て、除斥・忌避とは
2024/08/14 訴訟対応, 民事訴訟法
はじめに
東京五輪・パラリンピックの大会運営事業を巡る談合事件で、独禁法違反の罪に問われたイベント制作会社セレスポと同社の元専務取締役側は8日までに東京地裁の裁判長に対して忌避申し立てをしていたことがわかりました。公平で客観性のある審判が期待できないとのことです。今回は訴訟手続きにおける除斥・忌避制度について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、東京五輪・パラリンピックの大会運営事業を巡る談合事件で、大会組織委員会運営局の元次長と電通の元幹部らが受注予定事業者を調整していることを把握しながら、セレスポ元取締役はその割り振りに従って入札した容疑で起訴されております。この公判でセレスポ側は証人や証拠の採用に関し、裁判長が検察側の意見に偏った決定をしているとし、また同裁判長は大会組織委員会運営局の元次長や博報堂と関連会社の前社長の公判でも裁判長を務めており、有罪とする意思は確定的だとして忌避を申し立てました。
除斥・忌避・回避制度とは
訴訟当事者と裁判官との間に一定の関係が存在する場合や、手続きの公正さが失われるおそれがある場合に裁判官が当該訴訟手続きから除外される場合があります。それが除斥・忌避・回避制度です。この制度は民事・刑事両訴訟手続きに存在するもので、除斥は一定の関係性が発生した場合には法律の規定によって当該裁判官は当然にその訴訟手続きの職務執行から排除されます。忌避は除斥事由には該当しない場合でも、手続きの公正さを阻害するおそれがある場合に当事者の申し立てによって職務執行から排除されます。そして回避は、裁判官が自己に除斥また忌避事由があると考える場合に自ら離脱するというものです。いずれも公正・公平な裁判を実現するための制度と言えます。
除斥事由
除斥は上でも触れたように裁判官と当事者との間に一定の関係がある場合に当然に排除されます。刑事訴訟での除斥事由は、(1)裁判官が被害者、(2)裁判官が被告人または被害者の親族、(3)裁判官が被告人または被害者の法定代理人等、(4)裁判官が証人または鑑定人、(5)裁判官が被告人の代理人または弁護人、(6)裁判官が検察官または司法警察員の職務を行った、(7)裁判官が付審判請求等に関与した場合とされます(刑訴20条)。民事訴訟の場合は、(1)裁判官またはその配偶者が事件の当事者、(2)裁判官が当事者の親族等、(3)裁判官が当事者の後見人等、(4)裁判官が事件の証人または鑑定人、(5)裁判官が当事者の代理人または補佐人、(6)裁判官が仲裁手続きに関与した場合となっております(民訴23条)。裁判官以外でも裁判所書記官や労働審判員、公証人や執行官等でも同様の規定が置かれております。
忌避事由
除斥事由に該当していない場合でも、裁判の公正を妨げる事由がある場合には裁判官の忌避を申し立てることができます。裁判の公正を妨げる事由とは、一般に裁判官が事件と関連の強い別の事件の訴訟代理人となったことがある場合、裁判官と一方当事者と内縁関係があった場合、退官間近の裁判官の再就職先の法律事務所の弁護士が代理人となっている場合、裁判官が株主となっている会社が当事者である場合などが挙げられます。これに対し、訴訟指揮に不満がある場合、裁判官の性格や言動などに不信感があるといった場合は忌避事由に当たらないと言われております。また当事者が裁判官の配偶者の親であった場合に忌避を否定した判例も存在します(最判昭和30年1月28日)。忌避の申し立てがなされた場合、当該裁判官が関与しない形の合議体で審議がなされます(民訴25条1項、2項、3項)。そして却下された場合は即時抗告を行うことができます(同5項)。またさらに特別抗告も可能です(336条1項)。
コメント
本件で被告人側は裁判長が同事件の他の被告人に対する公判にも関与しており、すでに有罪の意思を形成しているとして、公平で客観性のある審判を期待できないとしております。これに対し東京地裁は7日、忌避申し立てを却下しており、弁護側は即時抗告する方針とされます。以上のように裁判官に公正な裁判が期待できない一定の事由がある場合には当該裁判官を除外する制度が用意されております。しかし一般に「忌避」申し立てが認められることはほぼ無く、また訴訟遅延目的が明らかな場合は当該裁判官自身が却下する簡易却下手続も存在します。一方で、「除斥」の場合は当然に除外されることとなります。
訴訟に際してはそれぞれの制度の要件について、あらかじめ把握し準備していくことが重要と言えるでしょう。
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