排除措置命令で県漁連などが差し止め申立て、独禁法の不服審査手続
2023/12/18 訴訟対応, 独禁法対応, 独占禁止法
はじめに
有明海の養殖海苔の取引をめぐり、熊本県漁連などが生産者に全量出荷を不当に求めていたとして、公正取引委員会が排除措置命令を出す旨の通知をしていたことがわかりました。漁連側は東京地裁に差し止めを申立てたとのことです。今回は独禁法の不服審査手続きを見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、「佐賀県有明海漁業協同組合」と「熊本県漁業協同組合連合会」の2つの漁業団体が生産者に対して全ての海苔を組合に出荷するという内容の誓約書を書かせ、全量出荷を強制していた疑いがあるとされます。公取委は海苔の生産者の取引を不当に拘束しており、独禁法に違反するとして排除措置命令を出す方針を固め、漁業団体に通知していたとのことです。これに対し漁業団体側は違法性の認識はなく、独禁法違反には当たらないとして東京地裁に仮差し止めの申立てを行ったとされます。なお公取委は「福岡有明海漁業協同組合連合会」にも立ち入り検査を行いましたが、同会は再発防止を確約する計画を提出しているとのことです。
拘束条件付取引とは
独禁法2条9項6号二では、「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもって取引すること」を拘束条件付取引としております。また一般指定12項では、「法第2条第9項第4号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」と規定しております。つまり再販売価格の拘束(2条9項4号)と排他条件付取引(一般指定11項)以外の様々な拘束条件を付けた取引を12項が規制しているということです。拘束条件付取引に該当する例としては、メーカーが流通業者に販売先や販売方法などを制限する契約を締結する場合が挙げられます。このような制限は販売促進のために行われることが多く、直ちに違法となるわけではありません。公正な競争に影響を及ぼす場合に問題となるとされます。
審判制度の改正と訴訟手続の整備
上記のような独禁法違反行為が確認された場合、公取委から排除措置命令などの行政処分がなされることとなります。従前事業者が排除措置命令などの行政処分を受けた際、不服がある場合は処分を受けた日から60日以内に審判請求ができました。審判手続では、公取委から指定された審判官が主宰し、事件を審査した審査官が立ち会って審理がなされました。しかし平成25年改正によってこの制度は廃止され、現在では東京地裁を専属管轄とする抗告訴訟に一本化されております。そこでは3~5人の裁判官による合議体で審理されることとなっております(86条)。また抗告訴訟であることから行政事件訴訟法により、処分があったことを知った日から6ヶ月以内または処分の日から1年以内という提訴期間に服すこととなります(14条)。
仮の救済制度
以前は排除措置命令に対し執行停止制度として、供託による執行免除制度が存在しましたが、同年の法改正によりこれも廃止されております。現在ではやはり行政事件訴訟法の執行停止制度によることとなります(25条)。その要件は、(1)取消訴訟が提起されたこと、(2)処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があること、(3)公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときに該当しないこと、(4)本案について理由がないとみえるときに該当しないこととされます。これらの要件に該当する場合に執行が停止されます。なお行政事件訴訟法では、行政庁が一定の処分または裁決をすべきでないにもかかわらず、これがなされようとしている場合に差し止めの訴えを提起できます(3条7項)。またこの差し止めの訴えが提起されている際に、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある場合に仮の差し止めを命ずることができるとされます(37条の5第2項)。
コメント
本件で公取委は県漁連などに対して、有明海苔の全量出荷を生産者に強制しており、拘束条件付取引に該当するとして排除措置命令を出す処分案を通知しました。これに対し漁連側は違法性の認識はないとして東京地裁に命令の差し止めと仮差し止めを求めたとされます。以上のように現在独禁法違反による行政処分に対しては公取委による審査制度が廃止されており、通常の行政処分と同様に行政事件訴訟法に基づいて抗告訴訟を提起することとなります。ただし専門的判断を確保すべく東京地裁に管轄を集中しており、専属管轄とされております。期間制限も処分を知った日から6ヶ月となります。本件ではまだ処分がなされていないことから差し止め訴訟となります。行政庁から立入検査を受けるなど、処分が予想される場合にはどのような手続きが進んでいくのか、またどのように不服申立てができるかを把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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