資生堂が3月に移行予定、指名委員会等設置会社について
2024/01/11 商事法務, 会社法
はじめに
化粧品大手「資生堂」は3月開催予定の定時株主総会での承認を条件として指名委員会等設置会社に移行すると発表しました。さらなるコーポレートガバナンス進化に向けた取組とのことです。今回は指名委員会等設置会社について見直していきます。
事案の概要
資生堂の発表によりますと、同社では2023年~2025年までの3カ年を中心とした長中期戦略で、「ブランド」「イノベーション」「人財」への投資を強化し、またグローバルで400億円を超えるコスト削減を実現し、適正な地域ポートフォリオへの転換と不透明で変化の激しい市場環境にも柔軟に対応できる経営基盤を構築するとしております。その上で会社運営の透明性・公正性を確保しつつ戦略策定と迅速な執行を行うため現在の監査役会設置会社から指名委員会等設置会社に移行するとのことです。指名委員会および報酬委員会は独立社外取締役のみで構成し、透明性と客観性を高く実現していくとされます。今年3月に開催予定の第124回定時株主総会で承認を得る予定となっております。
指名委員会等設置会社とは
指名委員会等設置会社とは、指名委員会、報酬委員会、監査委員会の3つの委員会を設置している株式会社形態を言います(会社法2条12号)。各委員会の構成員は過半数が社外取締役となっており株主保護の見地に立った厳正な監督を行うことを目的としております。また取締役会が経営を監督し、業務執行は執行役が担当することで、経営の合理化と適正化・迅速化が期待できます。この制度は2003年の商法特例法改正によって初めて導入され、2006年施行の会社法では委員会設置会社として引き継がれました。その後2015年改正で監査等委員会設置会社の導入に伴い、現在の指名委員会等設置会社と改名されております。
各機関の特徴
(1)指名委員会
指名委員会は取締役や会計参与の選任または解任に関する事項を決定する機関です(404条1項)。指名委員会が決定した選任・解任議案を策定し、株主総会に提出され、普通決議によって決定されることとなります。なお指名委員会に限らず各委員会の委員は3人以上必要で、取締役会で取締役の中から選任されます。また構成する取締役の過半数は社外取締役である必要があります。
(2)報酬委員会
報酬委員会とは、取締役、執行役、会計参与の個人の報酬と報酬の内容に関する方針等を決定する機関です。執行役が支配人その他の使用人を兼ねているときは、支配人その他の使用人としての報酬についても報酬委員会が決定することとなります(404条3項)。また報酬の内容に関する方針とは固定報酬や業績連動報酬、株式報酬などの種類や計算方法とされております。
(3)監査委員会
監査委員会とは、取締役や執行役の職務執行の監査、監査内容に基づく報告書の作成、会計監査人の選任・解任に関する議案内容を決定する機関です(404条2項)。執行役や取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、またはするおそれがある場合に差止請求をするのも監査委員です(407条1項)。監査委員は会社または子会社の執行役や業務執行取締役、会計参与、支配人、使用人を兼任することができないとされます(400条4項)。
(4)執行役
執行役は取締役会によって選任され、指名委員会等設置会社の業務執行を担う機関です(418条)。通常の株式会社よりも広範な業務執行権限を有し迅速な業務執行が可能となっております。任期は1年で取締役と兼任することも可能です(402条6項)。また執行役が複数選任されている場合は取締役会によってその中から代表執行役を選任することとなります(420条1項)。
コメント
本件で資生堂は3月の定時株主総会での承認を条件に、現在の監査役会設置会社から指名委員会等設置会社に移行する方針です。ガバナンスの強化とあらゆる経営環境に適応するべく公正で迅速な業務執行を図ります。以上のように会社法では経営判断と業務執行を明確に分離し、透明性と公正性を強力に強化した指名委員会等設置会社の制度を用意しております。この機関設計は特に欧米の投資家からの評価が高く、グローバルに展開する企業にとって非常に有用な制度と言えます。一方指名委員会等設置会社は各委員会を構成する委員の過半数が社外取締役でなければならず、会計監査人も必須となっており会社にとって負担の大きい機関設計と言えます。そのため日本では導入に踏み切る企業は多くなく、2023年12月時点で東証上場企業では92社に留まっております。なお指名委員会等設置会社よりもやや負担が軽減されている監査等委員会設置会社の制度も用意されております。自社の経営規模や状況に応じて適切な機関設計を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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