ステマに対する初の行政処分、クリニックが口コミ高評価を依頼
2024/06/17 コンプライアンス, 広告法務, 景品表示法, 医療・医薬品
はじめに
都内の医療法人が、患者にGoogleマップで高評価の口コミ投稿を依頼し、その引き換えに割引をしたとして、消費者庁は2024年6月6日、景品表示法違反(不当表示)を理由に、再発防止などを求める措置命令を出しました。
「ステルスマーケティング」、いわゆるステマに対する、初めての行政処分となりました。
口コミ高評価の見返りに割引か
消費者庁は、6月6日、医療法人社団祐真会に対し、同法人が運営するマチノマ大森内科クリニックの診療所において、診療サービスに係る表示に景品表示法違反(同法第5条第3号(ステルスマーケティング告示))が認められたとして、同法第7条第1項の規定に基づき、措置命令を行いました。
2023年10月より、景品表示法の不当表示として「ステルスマーケティング(ステマ)」が新たな禁止行為となりましたが、このステマに関する、初めての行政処分となりました。
クリニックは、インフルエンザワクチン接種で来院した利用者に対し、Google マップの口コミ評価欄において、高評価である星評価5「★★★★★」または星評価4「★★★★」の投稿を依頼。高評価をした見返りにインフルエンザワクチン接種の料金を550円程度、割り引いていたということです。
消費者庁は、「表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、当該表示は、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難であると認められる表示に該当するものであった」とし、一般の口コミを装ったステマ行為であると認定しました。
クリニックに対する口コミ投稿は、2023年1月から2024年1月末までの期間で、計508件。
そのうちステマを依頼した期間での投稿は269件で、ほぼ星評価5が付けられていたそうです。投稿頻度も他の期間の約35倍と、通常よりも投稿数自体が多くなっていたほか、試算では平均1.3だった星評価が3.2まで高くなっていたとも報じられています。
なお、実際に違反が認定されたのは45件で、10件はすでに削除済みだということです。
医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について(消費者庁)
“ステマ”とは
“ステマ”とは、簡単にいうと、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すことです。
「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」として、不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)第五条第三号の規定に基づき、2023年10月1日から禁止行為として指定されています。
消費者は、企業による広告・宣伝には、ある程度の誇張・誇大が含まれていると承知した上で、商品・サービスを選んでいます。
しかし、ステマは、広告とはわからないように作られています。そのため、一般消費者には「広告である」と認識することが難しくなります。
ステマの具体例として、今回のGoogleマップの口コミのほかに、インフルエンサーなどの投稿の事例もありますが、景品表示法上の“ステマ”か否かの判断は、それらが「一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないかどうか」で判断されます。
判別が明瞭ではないと認定されるケースとしては、
・事業者の表示である旨について、部分的な表示しかしていない場合。
・事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。
・一般消費者が事業者の表示であることを認識できない文言を使用する場合。
・事業者の表示であることを一般消費者が認識しにくい場合。
(長文による表示、周囲の文字の大きさよりも小さい表示、他の文字より薄い色を使用した、など)
・SNSの投稿で、大量のハッシュタグを付けた文章の中に事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる場合
などが挙げられています。
「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準(消費者庁)
コメント
一般的に約84%の人が商品購入やサービス利用の際に口コミを参考にしているといわれており、それだけ、口コミ評価の高低が集客に大きな影響を与えることを意味しています。
5月31日には、Google マップの口コミで一方的な悪評を投稿されたとして、兵庫県尼崎市の眼科医院が投稿者に損害賠償を求めた訴訟で、大阪地方裁判所が、投稿の削除と200万円の賠償を命じました。
こうした訴訟や今回の行政処分等をきっかけに、今後、口コミの適法性に対して、より一層厳しい目が向けられることが予想されます。
口コミを書く側・書かれる側、双方が正当な口コミが行われるよう、十分に留意する必要がありそうです。
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