花王、アイリスオーヤマの意匠権侵害を主張しアイマスク販売差し止めを申し立て
2024/07/25 知財・ライセンス, メーカー
はじめに
花王株式会社は、アイリスオーヤマの製品の販売差し止めを求める仮処分を7月2日に東京地方裁判所に申し立てたと発表しました。自社製品であるアイマスクの意匠権をアイリスオーヤマに侵害されたと主張しています。
花王がアイリスオーヤマを意匠権侵害で提訴
花王は、7月9日に行われた発表の中で、仮処分申し立ての理由として、「アイリスオーヤマが発売するアイマスク、“モイスクル じんわりホットアイマスク”が、花王の保有する意匠権(登録1330629号)を侵害しているため」としています。
花王が販売差し止めを求めた製品は、アイリスオーヤマから販売されている以下の4製品です。
・モイスクル じんわりホットアイマスク 5枚入 無香料
|
そうした経緯もあり、花王は「長い時間をかけて広く認知され、信頼を築いてきたホットアイマスク市場が、類似品によってその信頼を損なわれることを強く懸念している」とコメントしています。
なお、アイリスオーヤマ側は現時点ではコメントを発表していません。
意匠権の保護
今回、問題となったアイマスクの意匠権。意匠権とはデザインの使用についての独占権です。
人を惹きつけるデザインは、市場での競争力を高める一方で、模倣の対象になり得ます。そのため、意匠法による保護を受けています。
その意匠法の保護対象となる「意匠」は、物品の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものを指し、物品の「部分」のデザインも意匠に含まれます。
さらに、2020年4月からは、物品に記録・表示されていない画像や、建築物、内装のデザインについても、新たに保護対象となりました。
ちなみに、意匠権として保護を受けるためには、特許庁に出願し、必要な要件を満たしているかの審査を経て、意匠登録を受ける必要があります。
オムロンが意匠権をめぐりタニタを提訴した判例も
意匠権が侵害された場合、意匠権者は侵害者に対して、侵害行為の差止を請求することができます。意匠権を侵害している製品の製造・販売の禁止や、在庫の廃棄請求も可能となっており、これとは別に損害賠償請求を行うこともできます。
これまでにも意匠権侵害をめぐる裁判が確認されています。過去には、オムロンが、自社が意匠権を登録した体重計とそっくりなデザインの体重計をタニタが製造したとして、意匠権侵害で提訴した事例がありました。
■オムロン・タニタ、体重計意匠権侵害訴訟
こちらは、オムロンヘルスケア株式会社が株式会社タニタに体重計の生産差し止めなどを求めた訴訟です。オムロンは2011年3月に、自社が製造・販売している体重計につき意匠登録出願を行い、同年9月に意匠登録(登録第1425652号)。その月から当該体重計の販売を開始していました。
しかし、翌2012年にタニタが発売した体重計のデザインがオムロンのものと酷似していたといいます。そのため、オムロンは同年、タニタを意匠権侵害で東京地方裁判所に提訴しました。
2015年2月26日、東京地方裁判所は判決を下し、タニタに約1億2900万円の支払いを命じました。
その後、両社は知的財産高等裁判所に控訴していましたが、2016年1月14日、最終的に和解が成立しました。なお、和解内容は明らかにされていませんが、タニタ側は、「自社の主張を尽くしたうえでの和解に納得している」旨、コメントを出しています。
コメント
花王の人気商品であるホットアイマスク『めぐりズム』。思わぬ形で争いに巻き込まれることになりました。
同じアイマスクの意匠権が争点となった訴訟として、東京地裁・平成30年12月20日判決があります。その際、東京地方裁判所は、意匠の類似性の判断は、
(1)意匠に係る物品の性質・用途・使用態様、公知意匠(国内または国外で公然と知られている意匠、頒布された刊行物やウェブサイト等に記載されている意匠)にない新規な創作部分の存否等を踏まえ、
(2)消費者等が視覚を通じて最も注意を惹きやすい部分(要部)を中心に対比し、
(3)両意匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断する
としています。
そのうえで、この訴訟では、意匠の要部(消費者等が最も注目する部分)を“アイマスクの構成全体”と認定。紐の先端部のビーズの有無、アイマスクと紐の接合部から先端部までの長さとビーズの直径の比の違いなどから、両意匠が類似しているとは認められないとして、原告が主張していた意匠権侵害を否定しました。
上記は、意匠権侵害が否定された事例ですが、仮に意匠権侵害が認められた場合、損害賠償請求の対象となるのはもちろんのこと、製造ラインのストップや在庫廃棄、ときには謝罪広告の掲出などを求められるおそれがあります。
製品を世に送り出す前に、競合製品の意匠の確認など、慎重に慎重を期した精査が必要になります。
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