倒産直前の資産隠しで運送会社社長ら逮捕、詐欺破産の要件について
2024/07/29   コンプライアンス, 事業再生・倒産, 倒産法, 刑事法, 物流

はじめに

 会社の倒産直前に資産約1800万円を隠したとして、大阪府警は25日、運送会社「グッドビリーヴ」(高槻市)の元社長らを破産法違反の疑いで逮捕しました。負債総額は約57億円とのことです。今回は破産法の詐欺破産罪について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、グッドビリーヴ社は2004年に設立され、スーパーや食品メーカーとの取引があり、16年頃には売上高が100億円を超えたものの、その後に資金繰りが悪化し、コロナ禍の影響もあって経営状態は向上せず、22年7月に事業を停止したとされます。同社元社長と取締役は共謀し、会社の資産約1800万円を取引先の会社などを通じて元社長が実質的に経営する別の運送会社に移し、その後大阪地裁に破産手続きの申し立てをしたとのことです。別の運送会社には架空の配送料として現金で支払われていたとされております。大阪府警は詐欺破産の容疑で元社長らを逮捕しました。

 

破産の手続き

 破産法では、会社が支払不能や債務超過に陥った場合に破産手続開始の申し立てをおこなうことができるとしております(16条1項)。支払不能とは、債務者が支払能力を欠き、弁済期にある債務について一般的かつ継続的に返済することが困難な状態であることを言います。一時的に資金不足に陥ったとしてもそれだけでは該当せず、継続的に弁済ができない状況である必要があります。そして債務超過とは債務者の財産だけでは債務を完済することができない状態のことを言うとされます。会社の全財産をもってしても完済できない状態ということです。このような場合には会社は破産手続開始の申し立てを検討することとなります。具体的な手続きの流れとしては、債権者への通底、従業員の解雇、申立書類等の準備、裁判所への申し立て、破産管財人による財産売却、債権者集会、配当となります。

 

詐欺破産罪とは

 破産法265条1項によりますと、債務者が破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で(1)財産隠匿または破壊、(2)財産の譲渡または債務の負担を仮装、(3)財産の状況を変更して価値を減損、(4)財産を債務者の不利益に処分または債務の負担が禁止されております。違反した場合は詐欺破産罪として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております。債務者に破産手続開始決定がなされたことを知りながら、債権者を害する目的で破産管財人の承諾その他の正当な理由無く債務者の財産を取得した場合も同様とされております(同2項)。なお法人についても両罰規定として同様の罰金が科されます(277条)。

 

詐欺破産罪の要件

 上でも触れたように破産法265条1項では、「破産手続開始の前後を問わず」と規定しております。破産手続開始決定を受けた後だけでなく、その前も規制の対象としております。具体的にどれくらい前まで対象としているかについては条文上示されてはおりませんが、すでに返済が困難な状況となっている場合は該当する可能性が高いと言えます。さらに詐欺破産罪では「債権者を害する意図」が要件となっております。その行為によって債権者が不利益を受けることを認識し、その上で財産の隠匿や破損、第三者に廉価で売却したり、不利な条件でさらに債務を負う、債務を新たに負ったように仮装するといった行為をすると詐欺破産罪が成立することとなります。またこれらの行為に加担した者も同様となります。

 

コメント

 本件では2022年7月末に事業を停止し負債は約57億円に上り、8月に破産手続開始申し立てをしたとされます。。その直前の同年5月~7月にかけて、同社元社長と取締役が共謀し、元社長が実質的に経営する別会社に架空取引で約1800万円を移したとのことです。すでに返済困難が明らかとなっている状況で、債権者への配当に当てられるべき資産を現金で別会社に移していたことから、詐欺破産罪の要件を満たす可能性は高いと言えます。以上のように破産法では破産に近い状況での財産隠しには厳格な罰則が置かれております。破産会社だけでなく、第三者もその状況を知った上で財産を譲り受けるなどした場合も同様となっております。債務超過に陥った場合は詐欺破産が疑われることがないよう専門家と慎重に手続きを進めることが重要と言えるでしょう。

 

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