公正取引委員会がハーレーダビッドソンジャパンに立入検査 /優越的地位の濫用とは
2024/07/31 行政対応, 独禁法対応, 独占禁止法
はじめに
米国の大手バイクメーカー「ハーレーダビッドソン」の日本法人が販売店に過剰なノルマを課していたなどとして、公正取引委員会が立入検査に入っていたことがわかりました。廃業した店舗もあったとのことです。今回は独禁法の優越的地位の濫用について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、「ハーレーダビッドソンジャパン」は2020年~2021年、正規の販売店に通常の営業活動では達成が難しい過剰なノルマを一方的に課し、達成できない場合は正規店としての契約を更新しない旨を伝えるなどしていたとされます。販売店の中には自腹で購入し、中古そして販売するなどしてノルマ分を補っていたところもあり、経営が圧迫され廃業した店もあるとのことです。また販売店が望まない車種も購入させていた疑いもあるとされます。公取委はハーレーダビッドソンジャパンが販売店への強い立場を利用してこのような行為を繰り返していたと見て詳しい経緯を調べる方針です。
優越的地位の濫用とは
独禁法2条9項5号では、自己の取引上の地位が相手より優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に取引以外の商品を購入させたり、金銭その他の経済上の利益を提供させたりする行為を優越的地位の濫用としております。取引の相手方に対して代金の支払いを遅らせたり、一方的に減額するといった行為も該当します。違反した場合には排除措置命令の対象となり(20条)、継続して行った場合は課徴金納付命令の対象となります(20条の6)。また排除措置命令に違反した場合には罰則として50万円以下の過料が規定されております。なおこの優越的地位の濫用と下請法は行為類型が重複しておりますが、下請法は適用対象を明確にし、簡易迅速な手続きで下請事業者の保護を図る法律とされます。そのため両方に該当する場合は原則として下請法が適用されることになります。
優越的地位の濫用の要件
公取委のガイドラインによりますと、「自己の取引上の地位が相手方に優越している」に関して、市場支配的な地位またはそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく、取引の相手方との関係で相対的に優越していれば足りるとされております。その判断にあたっては、両者の取引依存度や市場における地位、取引先変更の可能性、その他取引することの必要性を示す事実などを総合的に考慮するとされます。相手方の取引依存度が高い場合は、自己と取引できなくなることによって相手方の事業経営上大きな支障を来すとされており、自己のし上でのシェアが大きいほどそれは顕著になるとされます。相手方が自己と取引するに当たり、多額の投資をしているといった場合も支障は大きいと言えます。自己の商品に高いブランド力がある場合も同様です。そして「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものとされ、現にそのような慣習があったとしても、それだけで正当化されるものではないとのことです。
公正競争阻害性
優越的地位の濫用における公正競争阻害性は、自由競争基盤の侵害とされます。公取委のガイドラインでは、自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対しその地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、当該取引の相手方の自由かつ自主的な判断による取引を阻害するとともに、当該取引の相手方はその競争者との関係において競争上不利になる一方で、行為者はその競争者との関係においてい競争上有利となるおそれがあるとしております。一般に不公正な取引方法における公正競争阻害性は自由競争の減殺や競争手段の不公正さなどに求められることから、優越的地位の濫用における公正競争阻害性はかなり特殊なものと言えます。
コメント
本件でハーレーダビッドソンジャパンは正規販売店に対し過剰なノルマを課し、達成できない場合は正規店としての契約を更新しない旨を伝えていた疑いがあるとされます。ハーレーダビッドソンジャパンでは、同社のバイクは正規販売店でなければ販売できないものとしており、販売店にとっては取引依存度の高さや取引先変更の可能性の低さから優越的地位の濫用に該当する可能性は高いのではないかと考えられます。以上のように自社よりも立場の弱い取引先に対し、その優位の立場を背景に不用意な要求をした場合は独禁法違反になるおそれがあります。取引相手が下請事業者でない場合でもこれらの点を踏まえて、今一度取引先との関係を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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