イノシシの死骸を不法投棄 町職員が廃棄物処理法違反か
2024/08/16 コンプライアンス, 行政対応, 食品衛生法, 行政法
はじめに
今年7月、福岡県苅田町の町職員らが、町内で回収したイノシシの死骸1体を道路沿いに投棄していたことがわかりました。廃棄物処理法違反の可能性があると指摘されており、現在、福岡県警が事実確認を進めているということです。
イノシシなどは農作物や森林を荒らしてしまうため、被害を防止するために害獣として駆除されています。しかし、被害防止目的で駆除された動物は適切に処理しなければ、法に抵触する可能性があります。
80kgのイノシシを投棄か
報道などによりますと、7月29日午前9時ごろ、県道で男性3人がイノシシの死骸を軽トラックの2台から降ろし、投棄する様子が目撃されたということです。その際、軽ワゴン車が一緒に停車されており、車体には「苅田町」と書かれていたといいます。
その後、目撃者が「苅田町と書いた車で来た数人がイノシシを捨てている」と110番通報。町は警察から連絡を受け、不法投棄を把握しました。
不法投棄を行っていたのは、福岡県苅田町の町職員2名と猟友会所属の猟師1名で、共に投棄の事実を認めているということです。
【イノシシを投棄した経緯】
・29日朝、猟友会所属の猟師が仕掛けたワナにイノシシがかかり、死んでいるのを発見。
・通常は捕獲した際に死なせて、食用に解体するか山中に埋めていたものの、ワナにかかったイノシシは80キロの重さがあったため、男性は1人では処理が難しいと判断。町職員に協力を要請する。
・町職員2名が公用車で現場到着後、猟師の指示で、イノシシの死骸を猟師の軽トラックに載せる。
・その後、公用車に乗り込んだ町職員は軽トラックの後について移動。数キロ先の苅田町南原の山間部にある県道沿いの公有地に到着する。
・本来、死骸となったイノシシは山中に埋めるなどしていたが、イノシシが大きすぎて埋めることができなかったため、3名は、公有地の草むらに死骸をそのまま投棄した。
町は今後マニュアル整備や指導などを行い、再発防止策を講じるとしています。
適切に処理をしないと法律違反に
近年、ニホンジカやイノシシなどの有害鳥獣によって、農作物や森林が荒らされる被害が確認されています。農作物被害額は年間160億円前後で推移しており、森林の被害面積は令和4年度だけで年間約5000ヘクタールに上ったといいます。
鳥獣被害の拡大は、農業継続の困難や、森林の生態系破壊、自動車事故等の誘発につながるおそれがあることから、自治体などは地元猟友会や猟師らに駆除を依頼しています。
一方で、捕獲後のシカやイノシシについては、適切な方法で処理する必要があり、処理の仕方によっては、いくつかの法律に抵触する可能性があります。
例えば、捕獲した個体を路上にそのまま放置するといった行為は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」で原則禁止されています。
また、捕獲個体を生活環境上影響が生じるような処理を行った場合は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」に抵触する可能性もあります。
さらに、食肉として加工する場合には「食品衛生法」を遵守し、国や自治体のガイドラインに則り衛生的に処理・活用される必要があります。
野生鳥獣被害防止マニュアル ~捕獲鳥獣の食肉等利活用(処理)の手法~(農林水産省)
コメント
鳥獣の不法投棄に町職員が関与していた今回の事件。2022年11月には、香川県で男性2人がイノシシの死骸を山中に捨てたとして廃棄物処理法違反と鳥獣保護法違反の容疑で書類送検されています。
野生鳥獣による農作物被害額は、2004年度の239億円をピークに、近年は160億円前後まで減少していますが、その背景には、全国での捕獲体制強化とそれに伴う猟師の活躍があるといわれています。
一方で、環境省の調査では、1975年には517,800人いた狩猟免許所持者は2019年には215,400人にまで減少しています。年齢別では50才以上が7割を占めるなど、山間部における過疎問題なども相まって、猟師の高齢化が深刻な課題となっています。
捕獲数が増えれば、処理すべき鳥獣の死骸等も増え、高齢化した猟師一人一人にかかる負担も大きなものとなっていきます。捕獲報酬の上昇による狩猟免許所持者数の増加、行政を巻き込んでの後処理の支援強化などを検討する必要がありそうです。
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