公取委が日清食品に警告へ、独禁法が禁じる“再販売価格の拘束”について
2024/08/20   契約法務, コンプライアンス, 行政対応, 独禁法対応, 独占禁止法, メーカー

はじめに


食品メーカー大手、日清食品が独占禁止法(再販売価格の拘束)に違反した疑いがあるとして、公正取引委員会が文書で警告する方針だと報じられました。
日清食品は小売店に対し、カップヌードルなどの人気カップ麺商品5品目で、希望小売価格の値上げに合わせて販売価格の値上げを求めていた疑いが持たれています。

 

全国の小売店数百社に価格拘束か


報道などによりますと、警告の対象となるのはカップ麺の「カップヌードル」、カップヌードルシリーズの「カレー」「シーフードヌードル」、「日清のどん兵衛きつね」「日清焼きそばU.F.O.」の5品目です。いずれも日清食品の主力商品で高い人気を誇っています。

日清食品のカップ麺や袋麺の希望小売価格は、2022年6月に約180品目、23年6月に約170品目で5~13%引き上げ、「カップヌードル」(78グラム)は2年間で税抜き193円から236円に上がったということです。

日清食品は、このうち5品目について、全国のスーパーやドラッグストアなど小売店数百社に対し、「値上げした希望小売価格に合わせて、販売価格を引き上げるよう」求めた疑いが持たれています。
一部報道では、その際、日清食品の営業担当者が、

・価格を引き上げれば、特売(セール商品を小売店に安値で卸す)時に価格交渉に応じる旨
・ライバル店は値上げに応じた旨

などを伝えて説得していたとされています。

加えて、日清食品は、小売業者が特売セールを実施する際の店頭価格の決定にも介入していたとみられています。

小売業者は要求を断ることで日清食品との関係が悪化することを懸念し、値上げ要請に従っていたということです。

 

価格拘束とみなされる行為について


メーカーが、指定した価格で販売しない小売業者などに対し、卸価格を高くしたり、出荷を停止したりするなどして、小売業者などの再販売価格を「拘束」することは、独占禁止法第2条9項4号で禁止されています。消費者が本来であれば安い価格で買えたはずの商品を高く買わなければならない事態につながるためです。

この場合の「拘束」は、契約で義務付けられているかどうかに関わらず、決められた価格に従わなかった場合に、販売業者に経済的な不利益を生じさせていれば十分認められるとされています。
つまり、メーカー側が提示した価格に従わないと何らかのペナルティがあるとされている場合、独占禁止法が禁じる再販売価格の「拘束」と認められることになります。(最判昭和50年7月10日)

一方でメーカーが“希望小売価格”や“標準小売価格”を設定するにとどめ、小売業者が販売価格を自由に決定できる状況であれば、「拘束」には当たらないとされています。

独占禁止法第2条9項4号
⑨この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
 
四 自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、次のいずれかに掲げる拘束の条件を付けて、当該商品を供給すること。
イ相手方に対しその販売する当該商品の販売価格を定めてこれを維持させることその他相手方の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること。
ロ相手方の販売する当該商品を購入する事業者の当該商品の販売価格を定めて相手方をして当該事業者にこれを維持させることその他相手方をして当該事業者の当該商品の販売価格の自由な決定を拘束させること。


 

コメント


日清食品が再販売価格の値上げを要請した背景には、物価高が影響しているといわれています。昨今の原材料費や燃料費の高騰などを受け、日清食品から卸業者への出荷価格も高騰しているといいます。

こうした中、スーパーなどの小売業者で商品が安売りされてしまった場合、卸業者から日清食品に対し出荷価格の値下げを要求されるおそれがあります。そのため、全国一律での販売価格の引き上げを図ったのではとみられています。

一方、「再販売価格の拘束」と公正取引委員会から認められた場合、違反状態の是正を目的とした排除措置命令や、課徴金の納付命令を下されるおそれがあります。

確定した排除措置命令に違反すると「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」(同法第90条第3号)、法人には「3億円以下の罰金」(同法第95条第1項第2号)が科されます。

加えて、排除措置命令の確定後、損害を受けた事業者から損害賠償を請求されるリスクもあります。

販売戦略等に関わる経営層も含め、こうした独占禁止法の禁止事項の把握、違反時のリスクの大きさを十分に理解する必要がありそうです。

 

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