サカイ引越センター従業員が会社を提訴、出来高払制とは
2024/08/29 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 物流
はじめに
引っ越し大手「サカイ引越センター」(堺市)の従業員らが同社を相手取り、未払い残業代など計約3600万円の支払いを求め27日、大阪地裁に提訴していたことがわかりました。不当に残業代が低く抑えられているとのことです。今回は出来高払制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告は大阪や京都など5府県の従業員や元従業員で、同社は引っ越し件数や1件あたりの売上などに応じた「業績給」を支払ってきたものの、従業員は指示に従って決められた仕事をするしかないとし、実体に合わない出来高払によって残業代の割増率が月給制の5分の1に抑えられ不当であるとしております。また原告側によりますと、同社は東京での訴訟の一審判決後、過去1年分の清算金を支払うことでそれ以前の債権債務が無い旨の精算同意書を配ったとのことです。原告側は、3年分請求できることも説明せず、1年分に限った支払いで請求権を放棄させるものであり無効であるとしております。
出来高払制とは
出来高払制とは、一般に歩合制とも呼ばれ、従業員が販売した金額や製造した物の量などの成果に応じて賃金の額を決定する制度を言います。出来高払制は成果に応じて賃金が決まることから、会社側にとっては無駄がなく、労働者にとっても成果が上がれば収入も上がることから業務に対するインセンティブが与えられるというメリットがあると言われております。他方で思うような成果が上がらなかったり、成果が0といった場合には極端に収入が減少してしまい、生活が不安定になるといったデメリットも指摘されております。そこで労働基準法では出来高払制に対して一定の規制を置いております。以下具体的に見ていきます。
労基法による規制
労働基準法27条によりますと、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金を保障しなければならない」とされております。この保障給は労働時間あたりで定める必要があるとされ、具体的な算定基準などは法定されておりませんが、休業手当に準じて平均賃金の6割が目安と言われております。また厚労省の通達では、常に通常の実収賃金とあまり隔たらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めることとされております。つまり月に何円という固定給で定めるのではなく、労働時間1時間あたり何円という時間給で定め、就業規則や労働契約に記載しておく必要があるということです。なおこの保障給は出来高払給の割合が賃金総額の4割未満であるときは支払う必要はないと考えられております。このような場合は労働者に与える影響が小さいためとされます。また出来高払制を採用する場合でも最低賃金法が適用され、1ヶ月の平均所定労働時間で給与を割った際、最低賃金を下回っている場合は違法となるとされております。
東京高裁判決
本件と同じくサカイ引越センターの東京での訴訟で東京地裁立川支部は、出来高払制を「作業量などの成果に応じて一定比率で定められるもの」と定義した上で、同社の業績給の一部は営業担当と顧客の交渉で決まっているもので作業員は会社から指示された作業をしているだけとし、自助努力が反映されているとは言い難いとして出来高払制に該当しないとしました。そして二審東京高裁も出来高払制について「労働者の賃金が労働給付の成果に一定比率を乗じてその額が定まる賃金制度をいう」とし、同社が出来高払制であると主張する売上給、件数給、愛車手当、無事故手当について出来高払制には該当しないとし、一審に続いて合わせて1500万円余りの支払いを命じました。
コメント
本件は以前紹介した東京での訴訟と同様にサカイ引越センターの業績給に関する訴訟です。上でも紹介したとおりこの訴訟は同社の元従業員3人が2019年に提訴したもので、今年5月に東京高裁で原告勝訴の判決が出ており、現在会社側が上告しております。本件は大阪や京都などの5府県の従業員と元従業員が原告となっております。東京高裁も認めていることから本件でも同社の業績給が出来高払制に該当しないと判断される可能性は高いと考えられます。以上のように出来高払制は従業員の成果によって賃金が決まります。それは本人の自助努力によって増減するものでなくてはなりません。出来高払制を導入する場合はその点を踏まえて、実質的に要件を満たしているかを慎重に検討することが重要と言えるでしょう。
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