労働者派遣契約 まとめ
2024/02/14 契約法務, 労務法務, 労働者派遣法
労働者派遣とは
企業が外部の人間を使って業務を行おうとする場合、業務委託と人材派遣会社からの派遣労働者を使うことが考えられます。どちらも社外の人間を使うという点で似ていますがその性質や法規制はかなり異なります。
業務委託契約については以前にも取り上げましたが、それぞれにメリット・デメリット、必要な手続、やってはいけないことなどの注意点が存在します。
それでは、労働者派遣契約とはどのようなものなのでしょうか?労働者派遣とは一般的に、派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることをいいます。業務委託と異なり、派遣先が業務の具体的な指示をすることができる点がポイントです。
かつて労働者派遣は雇用の不安定化や中間搾取による賃金の減少のリスクなどから全面的に禁止されておりました。1985年の派遣法制定により一部解禁され、その後も徐々に対象分野などが解禁されていき、現在では多くの分野で活用されております。以下労働者派遣法等に基づく労働者派遣業への規制等を具体的に見ていきます。
労働者派遣契約の形態
労働者派遣は一般的に「登録型派遣」と「常用型派遣」に分けられます。これは派遣元と労働者との契約期間による違いとされます。
「常用型派遣」とは、派遣元企業と労働者が無期限の雇用契約を締結し、派遣先への派遣期間が終了しても雇用契約は終了せず、派遣元会社は労働者を新たな派遣先企業に派遣することとなります。
これに対し、「登録型派遣」とは、労働者はまず派遣元企業に登録し、その後派遣先が決まった時点で派遣元企業と雇用契約を締結し、派遣期間が終了すると派遣元企業との雇用契約も終了するという形態です。一般に多くの人がイメージするのがこちらの形態です。
労働者派遣と3年ルール
労働者派遣法では、派遣労働者は原則として同一事業所で3年を超えて勤務することができないという、いわゆる「3年ルール」というものが存在します(第35条の3)。
3年ルールが適用されるのは有期雇用の派遣労働者のみとなっております。上記のいわゆる「登録型派遣」がそれに該当します。
この3年ルールは事業所単位での期間制限と個人単位の期間制限に分かれており、前者は同じ派遣元会社から、同じ派遣先の事業所に派遣できるのは3年までとされます。これに対し後者の場合は、同じ部署に同じ労働者を派遣できるのは3年までということです。事業所単位での期間制限の場合、派遣先の過半数労働組合または過半数代表者から意見聴取を行えば、3年間期間を延長できるとされます。
なお、以前は専門知識・スキルを必要とする専門26業務については無期限派遣が可能とされておりましたが、2015年労働者派遣法改正によりこれらの業務についても3年ルールが適用されることとなりました。
また、この3年ルールには例外があり、3年が経過した時点で年齢が60歳以上になる場合、終期が決まっている有期プロジェクトに派遣されている場合、日数限定業務に従事している場合、産休・育休・介護休業の代替業務に派遣されている場合、派遣元で無期雇用された場合には適用除外とされております。
労働者派遣の際の契約
企業が派遣労働者を使用する場合、派遣元企業と契約を締結することとなりますが、その際、基本契約と個別契約の2つの契約を締結することとなります。
基本契約とは、派遣元企業と派遣先企業が締結する契約で、派遣料金やお互いの義務、禁止事項、損害賠償、契約解除事項など基本的な共通条項を定めた契約です。労働者派遣法では特に締結や保管が義務付けられているわけではありません。こちらは同じ派遣元から複数の労働者を派遣する際に役立つとされます。
これに対し、個別契約とは、個々の労働者を派遣する際に個別条項をまとめた契約を言うとされます。こちらは基本契約とは異なり契約の締結や契約書の保管が労働者派遣法により義務付けられております。
労働者派遣契約での記載事項
(1)基本契約での記載事項
上記のように基本契約自体は労働者派遣法で締結が義務付けられているわけではありませんが、一般的な記載事項としては、①派遣料金、②相互の義務、③派遣労働者の行為により損害が発生した場合の損害賠償、④禁止事項、⑤知的財産の貴族、⑥契約解除事項などとされます。
相互の義務とは、二重派遣の禁止や期間制限、残業制限、守秘義務などです。そして禁止事項とは、反社勢力の排除条項などです。禁止事項に該当する場合には無催告解除ができる旨やそれによる解除で賠償義務を負わないことなどが盛り込まれます。
(2)個別契約での記載事項
基本契約に対し、個別契約は締結・保管義務が課されており、記載事項についても法定されております(第26条)。それによりますと、①業務内容、②業務に伴う責任の程度、③就業場所、④組織単位、⑤指揮命令者、⑥派遣期間、⑦就業日、⑧就業時間、⑨休憩時間、⑩安全衛生に関する事項、⑪派遣労働者からの苦情処理に関する事項、⑫契約解除にあたって講ずる雇用の安定を図るための措置、⑬派遣元責任者、⑭派遣先責任者、⑮就業日外労働の可否、⑯時間外労働時間、⑰派遣人員数、⑱派遣労働者の福祉の増進のための事項、⑲派遣先が派遣労働者を雇用する場合の紛争防止措置、⑳派遣労働者を無期雇用派遣または60歳以上に限定するか否か、㉑労働協定方式の対象となる派遣労働者に限るか否か、㉒紹介予定派遣に関する事項となります。
労働者派遣法上の禁止事項
労働者派遣法では上でも触れた3年ルール以外にも様々な禁止事項が規定されております。まず、労働者派遣事業はかつては届出制と許可制に分かれておりましたが、2015年改正から許可制に一本化されており、厚労大臣の許可が必要となります。従来届出制で派遣をおこなっていた事業者が許可を取らずに労働者派遣を行うことは違法です。
2012年改正から30日以内の雇用契約で働く「日雇い派遣」が禁止となっております。文言上は日雇いとなっておりますが1日単位ではなく、30日以内の契約が対象となります。
また、これら以外でも、公衆衛生上、公衆道徳上有害な業務への派遣、就業条件の不説明、必要な報告をしないまたは虚偽報告、違反申告をした派遣労働者への不利益取扱いなどがあり、これらには罰則も規定されております(61条等)。
(1)労働者派遣
労働者派遣のメリットとしては、労働者に直接指示をすることができることから、想定と異なる結果になるリスクが低いこと、自社社員をコア業務に集中させることができることが挙げられます。
一方でデメリットとしては、3年ルールにより同一事業所内で3年を超えて受け入れができないこと、安全衛生管理やキャリア形成支援措置など自社社員と同様の対応が必要なことが挙げられます。
(2)業務委託
これに対し、業務委託ではキャリア形成や教育のコストが低いことが挙げられます。デメリットとしては派遣と異なり直接指示や指揮命令ができないことから結果が想定とことなるものとなるリスクがあるとされます。
業務委託契約であるにもかかわらず指揮命令をしていた場合は、違法な偽装請負となる危険があります。また、業務委託は場合によっては労働者派遣よりも報酬が高額となる場合もあると言われております。
まとめ
近年、多くの企業で、自社の正社員をコア業務に集中させるため、または繁忙期だけに対応した労働力を活用するため労働者派遣や業務委託が利用されております。
どちらにもそれぞれメリット・デメリットがあり、特に労働者に直接指示や指揮監督ができるか否かが両者の一番の相違点と言えます。
また、労働者派遣は上でも触れたようにかつては全面禁止されていたほど、本来労働者の地位を不安定にしかねないリスクを孕んでおり、そのために労働者派遣法では対象業務が拡大する反面、年々規制も厳格化しつつあります。
それぞれのメリット・デメリットだけでなく、規制の軽重やコスト、自社の求めている結果や今後の業務遂行とキャリア管理など、様々な要素を総合的に検討して適切に利用していくことが重要と言えるでしょう。
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