インク再生会社が二審も敗訴、ICチップ仕様変更と独禁法
2024/09/13   コンプライアンス, 訴訟対応, 独禁法対応, 独占禁止法, メーカー

はじめに

プリンターのインクカートリッジの仕様を変更してリサイクル品の販売を妨げたのは違法として、リサイクル品製造会社「エコリカ」(大阪)が、大手精密機器メーカー「キヤノン」(大田区)に仕様変更の差止と3000万円の賠償を求めた訴訟の控訴審で12日、大阪地裁が請求を退けていたことがわかりました。今回は仕様変更と独禁法上の問題について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、エコリカはキヤノンの使用済みインクカートリッジを回収し、インクを再注入して純正品よりも廉価で販売していたとされます。しかしキヤノンは2017年から自社製品のICチップの仕様を変更し、一度使い切ったインクカートリッジにインクを再注入してもプリンター上では「インクなし」と表示されるようになったとのことです。これによりインク残量データの初期化が不可能となり、リサイクル品を販売できなくなったとして、エコリカがキヤノンに対しICチップの仕様変更の差止と損害賠償を求め提訴しておりました。一審大阪地裁は独禁法の抱き合わせ販売や取引妨害には該当しないとし請求を棄却しました。

 

問題の所在

 本件で原告側によりますと、問題となっているキヤノンのインクカートリッジのICチップは1度しか書き込みができない素子ですべてのメモリーを構成し、プリンターが一度情報を書き込むと、以後二度と書き換えることができないヒューズROMとされ、回路を物理的に破壊することでそれ以後の書き換えや再使用を不可能にしてリサイクルインクが発売できなくなっていたとのことです。このような行為は顧客にプリンターと併せて純正品の購入を余儀なくさせる「抱き合わせ販売」に該当し、独禁法19条に違反すると主張しておりました。またリサイクルインクを需要者に買わせないように妨害する行為に当たるとして、競争関係にある他の事業者に対する「取引妨害」に該当するとも主張しております。以下それぞれの要件を具体的に見ていきます。

 

抱き合わせ販売

 公取委の告示である一般指定(昭和57年6月18日公取委告示15号)10項前段によりますと、「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させる」ことを抱き合わせ販売として禁止しております(独禁法19条)。これは人気のある、または需要の高い製品を販売するに際して、不必要な品も併せて買わざるを得ない状況にして販売するといった行為を言います。要件としては、(1)主たる商品・役務と従たる商品が別個の商品・役務であること、(2)「不当に」、(3)「購入させる」こととなっております。複数の製品を組み合わせることによって新たな付加価値やシナジーを発生させ提供することは、販売促進として何ら問題は無い行為と言えます。しかし顧客の自由な商品選択を妨げたり、従たる製品の市場における自由な競争を減殺するといった場合には「不当」な抱き合わせ販売となります。

 

取引妨害

 一般指定15項によりますと、「自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わず、その取引を不当に妨害すること」が競争者に対する取引妨害として禁止されております。妨害の態様としては、威圧や強迫、誹謗中傷、物理的妨害、競争者の契約奪取、取引拒絶、供給遅延などが挙げられております。実際に問題となった例として、魚市場内のせり場に障壁を設けて競争者をせりに参加させないようにしたものや(勧告審決昭和35年2月9日)、競争者の顧客に対しすでに支払った掛け金相当額の値引きを申し出て契約を奪取したもの(勧告審決昭和38年1月9日)、エレベーターのメーカー系保守業者が、他の保守業者と契約しているエレベーター所持者に対し部品の納期を3ヶ月遅延させ契約を解約させたといった例があります(大阪高裁平成5年7月30日)。

 

コメント

 本件で大阪地裁は、リサイクルインクカートリッジではインク残量表示やインクエンドサインが出ず、インクエンドストップしないことにより相対的に製品機能が低下したと評価される可能性はあるものの、一定の手間をかけることによって利用は可能であり、消費者が純正品の購入を強いられているわけではないとして抱き合わせに該当しないとしました。またエコリカはキヤノンにとって競争関係にある他の事業者には該当するものの、需要者に買わせないよう妨害したとは認められないとしました。二審大阪高裁も一審に続いて請求を退けております。以上のようにリサイクル業者がリサイクル品を販売できなくする行為は場合によっては独禁法上の問題を発生させる可能性があります。競争者に対抗するための措置を講じる場合は独禁法の様々な禁止行為の要件を慎重に検討しつつ進めていくことが重要と言えるでしょう。

 

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