証券取引等監視委員会が東証社員を調査、「取引推奨」とは
2024/10/24 金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法
はじめに
東京証券取引所で企業の情報開示に関わる部署に所属する社員がTOBに関する情報が公表される前に親族に株取引を勧めた疑いがあるとして証券取引等監視委員会が強制調査をしていたことがわかりました。社員はすでに同部署から外されているとのことです。今回は金商法の情報伝達・取引推奨について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、監視委の強制調査を受けた東証の社員は、企業の経営に重大な影響を与える出来事があった際に行う適時開示などを担当する部署に所属していたとされます。同社員は業務上知った上場会社の株式公開買付(TOB)に関する非公表情報を知った上で、親族にそれらの会社の株取引を勧めていた疑いがあるとのことです。監視委は同社員のこれらの動きを把握し、同人やその親族の関係先などに強制調査を実施し、取引状況などを分析しているとされます。なお現在東証には約4000の企業が上場しているとのことです。
インサイダー取引と平成25年金商法改正
従来の金融商品取引法が規制していたインサイダー取引は、会社の内部情報等を知りうる立場にある会社関係者や証券会社の関係者などを対象とし、会社の重要な事実が公表される前に自ら株取引を行うことを禁止するといったものでした。しかしこの規定では第三者に情報を流して取引させるなど、自ら取引を行わない形態の不公正取引を規制することができませんでした。実際に上場会社の主幹事証券会社の社員が、公募増資前にその事実を第三者に伝達してインサイダー取引を行っていたという事例も発生し、金商法は平成25年改正によって新たに情報伝達、取引推奨も禁止することとなりました。以下具体的な要件を見ていきます。
情報伝達・取引推奨の規制対象
情報伝達・取引推奨の規制の対象となるのは、その職務等に関して重要事実を知った会社関係者・公開買付等関係者とされます(166条1項柱書、167条1項柱書)。そして退職してこれらの者でなくなった場合でも1年間は規制の対象となります。これは従来のインサイダー取引の規制対象と同様です。そしてこれらの者が情報を伝達する相手方となる「他人」は特に制限はなく、社内外のあらゆる人間が対象となりますが、本規制の対象となるのは会社関係者および公開買付等関係者に限定されており、情報を受け取る「他人」自体は規制の対象外です。ただし伝達を受けた「他人」が会社内の人間であった場合はその者も会社関係者に該当してしまう可能性はあると言われております。
規制行為
本規制は、会社の重要事実につき公表前に株取引をさせることによって他人に利益を得させる目的で職務上知った事実を他人に伝達する行為、または取引を進める行為を規制しております。違反した場合には刑事罰として5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(207条1項2号)。これはインサイダー取引と同様です。また課徴金の対象ともなっており、違反行為によって情報受領者等が得た利益相当額の2分の1の額の納付が命じられることとなります(175条の2第1項3号)。この罰則や課徴金は情報伝達・取引推奨を行っただけで直ちに科されるというわけではなく、これらの行為によって情報提供等を受けた者が実際に重要事実の公表前に株取引をした場合に限り科されることとなります。ただし情報伝達・取引推奨行為自体は金商法に違反することに変わりはないことから別途、行政処分等の対象にはなり得ます。
コメント
本件では東京証券取引所内でも企業の重要情報の適時開示などを担当する重要な部署の社員が、上場会社のTOB情報等を親族に伝達し、取引を勧めていた疑いがあるとされます。改正前のインサイダー取引規制では取り締まることが難しかった行為ですが、現行法ではこのような行為も規制対象となっております。これらの行為が事実であった場合はインサイダー取引と同様の罰則と課徴金の対象となってきます。以上のように現在の金商法は重要情報を知りうる内部の人間の行為だけでなく、第三者を介して行った不公正取引も規制対象としております。自社のTOBや組織再編、公募増資などの情報を得ていたとしても、それを親族や知り合い等に漏らす行為は重大な犯罪となります。社内で周知し、防止していくことが重要と言えるでしょう。
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