薬用歯磨き「10秒で黄ばみ消えた!」で一部業務停止命令
2024/11/06   コンプライアンス, 広告法務, 特定商取引法

はじめに

薬用歯磨きの「10秒で黄ばみが消えた!」との広告に合理的な根拠がないとして、消費者庁が販売会社に3ヶ月間の一部業務停止命令を出していたことがわかりました。同社に関しては消費者庁に4000件以上の相談が寄せられていたとのことです。今回は特定商取引法による規制を見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、通信販売会社「マーキュリー」(渋谷区)は少なくとも令和6年1月13日から同年3月26日までの間に、「o-dent
Clear
White」という薬用歯磨きについて「10秒で黄ばみが消えた!・・・本当に10秒歯に塗るだけで歯が真っ白になったんです!」「つまり!オーデントを10秒塗るだけで黄ばみを落とす・永久に白い歯をキープ」などと表示していたとされます。また「歯の蓄積黄ばみを…完全漂白できる裏技 黄ばみボロボロ落ちる理由」「黄ばみがベリッ?!」などとランディングページに表示していたとのことです。これに対して消費者庁は10秒で歯が白くなるという合理的根拠が調査で認められないとして、3ヶ月間の一部業務停止命令を出し、再発防止を求めました。同社は命令内容を精査しているのでコメントは差し控えるとしております。

 

特商法の誇大広告規制

 特定商取引法12条によりますと、販売業者または役務提供所業者は、通信販売をする場合の商品もしくは特定権利の販売条件または役務の提供条件について広告をするときは、性能、役務の内容、申し込みの撤回または解除に関する事項その他について、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものよりも著しく優良・有利であると人を誤認させるような表示をしてはならないとしております。インターネット販売で、サプリメントや健康食品などで実際にはそのような効果がないにもかかわらず、あるように表示して販売するといった行為が典型例と言えます。ゲームアプリ内でのガチャなどといったサービスに関しても同規定の規制対象となっております。以下具体的な要件を見ていきます。

 

誇大広告規制の要件

 特商法の誇大広告の対象は「通信販売」となっております。新聞や雑誌、TVやインターネットなどによる広告やダイレクトメールを見た消費者が、電話や郵便インターネット等で購入申し込みを行うような取引が該当します。リゾート会員権やゴルフ会員権、映画チケットや演劇チケット、英会話サロン等も「特定権利」として対象とされております。そして「誇大広告」とは、著しく事実に相違する表示や、実際のものよりも著しく優良もしくは有利であると人を誤認させるような表示を言います。「著しく」かどうかは社会一般に許容される程度を超えているかを言うとされます。またこのような広告をした業者に対しては、主務大臣は期間を定めて表示内容の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、その提出がない場合は具体的な立証を行うまでもなく、誇大広告とみなされることとなります(不実証広告規制 12条の2)。合理的な根拠とは、試験や調査、専門家や専門機関による見解、学術論文などが該当します。

 

景表法による規制との比較

 特商法の広告規制は上でも触れたように原則として通信販売を対象としておりますが、景表法の不当表示規制は取引全般を対象としており規制範囲がより広範となっております。違反に対しては景表法の場合は措置命令や違反行為の差し止めを命じる行政処分が規定されており、これらの行政処分に違反した際に罰則が置かれております。これに対し特商法では指示や是正措置などを命じる処分の他に業務停止命令や業務禁止命令が規定されております。また特商法の誇大広告違反については100万円以下の罰金(72条1項1号)と行政処分を介さない直罰規定が設けられております。このように特商法の規制は範囲が景表法に比べて狭い分、行政処分や罰則が景表法よりも厳しく設定されていると言えます。

 

コメント

 本件でマーキュリー社は薬用歯磨きについて、10秒で歯の黄ばみが取れるといった内容の表示をしていたとされます。消費者庁はこれに対し、一定の期間を定めて表示の裏付けとなる根拠を示す資料の提出を求めていたところ、同社からの提出はなかったとのことです。これにより実際のものより著しく優良であると誤認させる表示にあたるとして3ヶ月の業務停止命令を出しました。以上のように特商法では通信販売に関して事実と異なる誇大な広告を禁止しております。景表法にも同様の優良誤認表示や有利誤認表示が規定されておりますが、特商法の方がより厳しい規制が置かれており、業務停止命令などが出されることもありえます。そのため近年では消費者庁は景表法と特商法の連携を強化し、悪質な広告の取締強化を進めております。今一度自社の広告内容を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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