船井電機会長が開始決定に対し即時抗告、破産手続きについて
2024/11/14 事業再生・倒産, 破産法, メーカー
はじめに
船井電機が東京地裁から破産手続き開始決定を受けたことに対し、新しく就任した会長が決定の取り消しを求める即時抗告を申し立てていたことがわかりました。債務超過ではあるが破産には至っていないとのことです。今回は破産手続きについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、音響・映像機器メーカー「船井電機」(大阪府大東市)は10月下旬、東京地裁から破産手続開始決定を受けたとされます。同社は2021年に出版社により買収され子会社化して以降、持株会社の設立や脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を買収するなど経営の多角化を進めておりましたが、当初約300億円あった資産が流出し、資金繰りが悪化したとのことです。破産申立書によれば、同社は債権者524人、簿価で約474億円の負債を抱えているとされ、創業家の関係者で取締役の男性による「準自己破産」の申し立てがなされたとされます。この破産手続開始決定に対し、新たに就任した会長が即時抗告を申し立てました。
破産の要件
会社の資金繰りが悪化し、債務超過に陥った場合には破産などの倒産手続きが必要になってきます。それではどのような場合に破産ができるのでしょうか。破産法15条1項によりますと、「債務者が支払不能にあるとき」は、裁判所は申立により決定で破産手続を開始するとしております。そして「支払不能」とは、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」を言うとされます(2条11項)。この要件は個人と法人両方に適用されるものです。そして16条1項によりますと、法人については、「支払不能又は債務超過」の場合に破産ができるとしております。「債務超過」とは、債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいうとされます(同項カッコ書き)。つまり法人については、債務総額が総資産の評価額を上回っている状態でも破産の対象となるということです。
破産申し立て
上でも触れたように支払不能など、破産状態に陥った場合、裁判所は申立により決定で破産手続を開始します。そしてこの申立は債務者または債権者がすることができるとされております(18条1項)。通常は債務者が申立てることとなりますが、債権者も申立人に含まれております。債権者からの申立ては一般に債権回収や税務上の貸倒損金算入のために利用されていると言われております。なお債権者が申立てる場合は、その有する債権の存在と破産原因を疎明しなければならないとされます(同2項)。そして法人や会社の場合は、理事や取締役、業務執行社員、清算人も申立てることができます(19条1項、2項)。これらの者による破産を一般に「準自己破産」と言います。この場合も法人の支払不能または債務超過の事実を疎明することとなります(同3項)。
破産手続開始を争う場合
破産は通常、債務者によって申立てられますが、債権者からも申立てることができます。この場合、債務者からはまだ破産に至っていないと考え争うことがあります。債権者から申立てられた場合、裁判所は審理を行うにあたって、債権者と債務者の双方を審尋することとなります(13条、民訴87条2項)。そこでまだ支払不能状態ではないと主張することが考えられます。そして破産手続開始決定が出された場合、その決定が公告された日から2週間、即時抗告をすることが可能です(9条)。この抗告でも破産要件が存在しないことを主張していくこととなります。また精算手続である破産ではなく、事業再建型の民事再生手続への移行を目指す方法も存在します。再生手続開始決定がなされると、既に開始している破産手続は中止されることとなります(民事再生法39条1項)。
コメント
本件で資金繰りが悪化した船井電機の破産手続開始の申立ては同社の取締役が行ったもので、いわゆる準自己破産となります。これに対し新たに就任した会長が即時抗告を申し立てました。債権者ではなく会社役員が申し立てた破産手続きを、同社の会長が取り消しを求めるという異例の事態となっております。会長はまだ破産には至っておらず、民事再生法の適用を申請するとしております。一般的に破産手続開始決定に対する即時抗告が認められる例は極めて稀と言われておりますが、民事再生法適用の可否に注目されます。以上のように法人の破産は支払不能だけでなく債務超過の場合も申し立てることが可能です。またその申立ては債務者、債権者だけでなく役員等も可能となっております。それに対する即時抗告や他の再建型手続きへの移行の主張も可能です。資金繰りが悪化するとどのような手続きが始まるかをあらかじめ把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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