かんぽ生命が3000万株の自社株取得へ、自己株式取得について
2024/11/21 商事法務, コンプライアンス, 会社法, 金融・証券・保険
はじめに
かんぽ生命保険は14日、資本効率の向上などを目的に自己株式を取得する取締役会決議をしたと発表しました。上限は3000万株とのことです。今回は会社の自己株式取得規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、かんぽ生命は14日開催の取締役会で、自己株式を取得する決議をしたとされます。取得理由として、中期経営計画期間における株主還元方針として、機動的な自己株式取得を行うことで、総還元性向につき中期平均40~50%を目指すとしており、この方針に基づいて資本効率の向上を目的とするとのことです。取得対象株式は普通株式、取得上限は3000万株、取得価額上限は350億円、取得期間は11月15日から2025年11月14日とされます。なお同社定款39条では、剰余金の配当について、取締役会決議によることができる旨規定されており、本件自己株式取得もそれによるとのことです。
自己株式の取得
株式会社自身が自社の発行した株式を取得することを自己株式取得と言います。一度払い込まれた資本は維持されるべきとする資本充実の原則や、株式取引の公正性担保の観点から旧商法下では原則禁止されておりましたが、現行会社法では原則として許容されております。一口に自己株式取得言ってもその形態はさまざまで、株主との合意による取得、TOB、取得請求権付株式の取得、取得条項付株式の取得、組織再編などが挙げられます。自己株式の取得の効果とし、市場にあふれ価値が下がった自社株を買い戻すことによって株価を上昇させ、株式市場の安定化を図ること、敵対的買収に対する防衛策とすること、そして組織再編の際の対価として確保しておくことが挙げられます。このように自己株式の取得は会社にとってメリットがありますが、一方で会社財産の払い戻しの側面もあることから、一定の制限が設けられております。以下手続きを見ていきます。
自己株式取得の手続き
上でも触れたように自己株式の取得はさまざまな要因がありますが、ここでは株主との合意で有償取得する際の手続きを見ていきます。まず全株主を対象とする場合、株主総会の普通決議を要します(会社法156条)。取得株式数や株式の種類、対価、取得期間を決定します。これにより授権し、取締役または取締役会が実行します。全株主を対象とせず、特定の株主から取得する場合は特別決議を要します(160条1項)。この場合、他の株主は自己も対象とするよう株主総会の5日前までに請求することができます(同3項)。この請求権は定款によって排除することも可能です(164条)。またこれとは別に、取締役会決議によって自己株式取得を決定することができる場合があります。会計監査人設置会社であり、取締役の任期が1年で、その旨の定款規定がある場合となります(459条1項1号)。この規定は本来剰余金配当の決定を取締役会で行う場合のものですが、剰余金配当は有償での自己株式取得に類似することから、この規定により自己株式取得も可能とされます。
財源規制
自己株式の有償取得は出資金の払い戻しの側面もあることから、分配可能額の範囲内でなければならないという制限があります(461条1項1号)。分配可能額の計算は、剰余金の額から自己株式の帳簿価格、最終年度の末日後に自己株式を取得した場合の対価の額その他各勘定科目に計上した額等を控除して算出します。かなり複雑ですが、基本的にはその他資本剰余金とその他利益剰余金と言えます。つまり剰余金の範囲内で自己株式を取得できるということです。このいわゆる財源規制が適用されるのは、株主との合意による取得だけでなく、取得請求権付株式の取得、取得条項付株式の取得、譲渡制限株式の譲渡不承認による取得なども対象となっております。なお単元未満株の買い取りや、組織再編等で自己株式を取得する場合は適用外となっております。
コメント
本件でかんぽ生命は資本効率の向上などを目的に3000万株を上限として自己株式を取得する方針です。同社は定款で会社法459条1項1号の規定を置いていることから取締役会決議により自己株式取得を決定することができ、今回もそれによる決定と言えます。現時点では同社は約1万1000株の自己株式を保有しているとのことです。以上のように自己株式の取得は株価の安定や組織再編の準備などにも利用できるメリットがあります。しかし一方で会社資本の減少を招くことから分配可能額内という厳格な規制もあります。先日取り上げた資本金減少なども含めて、会社資本の適切な操作や株主還元を柔軟に検討していくことが重要と言えるでしょう。
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