日本製鉄がUSスチール買収巡り米政府を提訴、禁止命令の無効など求める
2025/01/17 契約法務, 海外法務, 戦略法務, 行政対応, 外国法, エネルギー関連
はじめに
アメリカのバイデン大統領は1月3日、日本製鉄株式会社のUSスチール社買収計画を禁止する命令を出したと発表しました。この禁止命令について、日本製鉄は1月6日、「違法な政治的介入があった」として無効を求める訴えをアメリカの裁判所に提起しました。
USスチール買収計画にバイデン氏“禁止命令”
日本製鉄は2023年12月、経営不振に陥ったアメリカ最大の鉄鋼メーカー「USスチール社」を141億ドル(日本円約2兆円)で買収する旨の合意が成立したと発表していました。
しかし、アメリカのバイデン大統領は今年1月3日、USスチール買収を中止するよう命じました。外国企業による米主要鉄鋼企業の買収が「国家安全保障とサプライチェーン(供給網)にリスクをもたらす」とし、30日以内に買収計画を完全かつ永久に破棄するよう求めた形です。
買収計画をめぐっては、対米外国投資委員会(CFIUS)が審査を行っていましたが、審査期限として設定していた2024年12月23日までに委員の間で安全保障上のリスクに関する合意が為されませんでした。そのため、委員会はバイデン大統領に最終的な判断を委任していました。
USスチールと共同提訴した内容
禁止命令を受けて日本製鉄とUSスチールは、今年1月6日、「不当介入があった」として、共同で2件の訴訟をアメリカの裁判所に提起しました。
1件目の訴訟は、「買収に関する大統領の命令およびCFIUSの審査について、米国憲法上の適正手続及びCFIUS審査に関する法定手続要件の違反、並びに違法な政治的介入への異議を申し立て、大統領の命令及びCFIUS審査の無効を求める訴訟」です。
こちらの訴訟で日本製鉄は、バイデン大統領が禁止命令を出したのは自身の政治的目的を達成するためで、法の支配を無視した違法な決定だったとして、命令の無効を主張しています。また、CFIUSの審査も適正を欠いた違法なものであるとして、審査のやり直しを求めています。
2件目の訴訟は、「クリーブランド・クリフス社、同社CEOのローレンソ・ゴンカルベス氏、及び USW会長のデビッド・マッコール氏が、本買収を阻止し、USスチールの競争力を削ぎ、日本製鉄が米国製の鉄鋼製品を米国のお客様に提供する能力を損なわせるために、共謀して行った違法行為に対する訴訟」です。
この訴訟で日本製鉄は、USスチールの競合他社であるクリーブランド・クリフス社」や労働組合USWの幹部が共謀し、日本製鉄の米国での競争力を低下させる目的で違法行為に及んだと主張しています。
今回の一連の訴訟提起に関し、日本製鉄は「本買収を完了させ、US スチールの従業員、地域コミュニティ、株主及びお客様に利益をもたらすためには、これらの法的措置が必要と判断」と提訴理由を発表しています。
US スチール買収への不当介入に対して複数の訴訟を提起(日本製鉄株式会社)
https://www.nipponsteel.com/common/secure/news/20250106_200.pdf
最初の焦点となる買収放棄期限
一連の訴訟では、“買収計画の放棄を求めた期限の扱い”が第一の焦点となります。前述した通り、バイデン大統領が発した禁止命令は、「買収放棄の手続きを30日以内に終えるよう」命じる内容となっています。この内容に従った場合、期限は2月2日となりますが、裁判所がこの買収放棄期限の延長などを認めるかが注目されます。
日本製鉄側は、バイデン大統領が設定した買収放棄期限も含めて、命令は無効だと主張する方針です。
しかし、一部の有識者の間では、「国の安全保障に関する大統領の判断は重く、結果を覆すことは難しい」とする意見も出ています。日本製鉄が主張を裏付ける証拠を集め、大統領の禁止命令や審査に違法性があったと立証できるかが鍵となります。
先の大統領選の結果を受け、1月20日以降、アメリカ大統領の地位にはトランプ氏が就くことになります。
現状、トランプ氏もSNS上で「私が大統領として、買収取引を阻止する」と投稿するなど、今回の買収に反対の意を唱えていますが、日本製鉄側はトランプ氏への丁寧な説明を行い、理解を得たい考えです。
コメント
企業の合併・買収(M&A)に関しては、他の買い手への都合の良い乗り換えを防ぐため売り手側へ違約金を課すのが一般的です。また、最近は、資金面や許認可面などを理由に取引が破談になった場合に備え、買い手側に違約金(取引額の1~5%ほど)を課す条項を契約に盛り込むケースも増えています。
今回の日本製鉄とUSスチールのケースでも、同様の条項が盛り込まれている可能性があると報じられています。
日本製鉄は、USスチールとは「一枚岩」であると、両社の強固な結びつきを強調。関係が続く限り契約も切れないとしています。
今後、訴訟と両社の関係がどのような展開を迎えるのか、注目されます。
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