株主総会対応にかかる裁判例まとめ
2018/08/15 総会対応, 会社法
1.はじめに
近年、株主総会を不当に仕切って金品を得るいわゆる「総会屋」は少なくなってきているとされています。他方、一般株主の質問等に対するコミュニケーションがますます重視されるようになり、対応を誤れば、株主総会決議自体の効力にも影響を与える可能性があります。以下では、株主総会の各段階について、実際に問題となった総会対応の裁判例をまとめています。
2.総会運営にかかる裁判例
(1)株主からの「株主提案」
ア 一般
一定の要件を充たした株主は、会社に対し株主総会の議題・議案を提案することができます。適法な株主提案権が行使された場合には、会社は提案された議題・議案を株主総会において上程しなければならず、これを怠った場合、株主総会決議が取り消されたり、過料の制裁を受けたりする危険があります。近年では会社を困惑させたりする濫用的な目的で行使される事例もあり、適切な対応が求められます。株主提案権についての詳細は以下の参考記事を参照してください。
<参考記事>
【特集】第2回 株主提案権の行使について(企業法務ナビ)
イ 裁判例
東京高裁平成27年5月19日の判決では、一人の株主が株主総会において114個もの議案を提案したことに対し、会社がこれを招集通知に記載しなかった等の対応を行ったことについて、当該株主の提案権の行使は濫用であり、会社の対応は株主提案権の侵害ではないと判断しました。
<参考記事>
株主提案権を侵害されたという株主の会社ないし取締役に対する損害賠償請求に一部理由があるとした原判決が控訴審において全部理由がないとして取り消された事例(徳永・松崎・斉藤法律事務所)
(2)会場の設営
ア 一般
株主総会の会場について、会社法上の定めはありません。株主から議事進行の妨害等が予想される場合には、役員と株主の間にスペースや柵などを設けたりすることもできると考えられます。会場を複数に分けることも可能ですが、株主からの質問権を確保するための設備等が必要になると考えられます。
イ 裁判例
大阪地裁平成10年3月18日判決では、株主総会の会場が二つに分かれていた場合においても、株主からの質問要求があれば直ちに対応できる体制を整えていれば足りるとし、質問があれば第一会場に誘導して質問をさせていたことから株主の質問権は侵害されていないとしました。
<参考記事>
裁判例に見る株主総会会場と議事運営(企業法務ナビ)
(3)議事進行
ア 一般
株主総会の議長は、株主総会の秩序を維持し、議事を整理したり、議長の命令に従わない者に退場を命令したりすることができます(会社法315条参照)。
<参考記事>
【特集】第5回 総会の議長の権限行使について(企業法務ナビ)
イ 裁判例
<参考記事>
(PDFファイル)判決文
(4)質問に対する説明
ア 一般
取締役は、株主総会において、株主から特定事項について説明を求められた場合、原則として必要な事項を説明する義務があるとされています(会社法314条参照)。この説明義務についてどの事項について、どの程度説明すればよいのかについては、下記の参考記事を参照してください。
<参考記事>
【特集】第3回 取締役の説明義務(企業法務ナビ)
イ 裁判例
<参考記事>
事前質問に対する一括回答(企業サポートJP)
<参考記事>
裁判例から見る従業員株主による株主総会の運営支援等(BUSINESS LAWYERS)
<参考記事>
株主総会での質疑打ち切りのタイミング(BUSINESS LAWYERS)
3.おわりに
総会屋などの特殊株主への対策のみならず、一般株主との円滑なコミュニケーションのためにも、適切な株主総会対応が必要とされています。企業としては、上記のような裁判例から法的に瑕疵のない総会運営を学びつつ、平穏な会場の設営・運営や緻密な想定問答の作成、株主との質疑応答を行う必要があると思います。
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