公益通報及び内部通報制度まとめ
2018/08/24 商事法務, 会社法
1.はじめに
最近では不正会計問題やデータ改ざん問題など企業不祥事に関わる報道が相次いだことや、コーポレートガバナンス・コードの要請などもあり、内部通報窓口への注目度はますます高まっています。もっとも、企業不祥事に関する第三者委員会の調査委員会の報告書を読むと、大半の報告書で、不祥事の原因や背景として、内部通報制度の機能不全が指摘されていることがわかります。そこで、内部通報制度を構築するにあたって、これを有効に機能させるためには、どのような点に留意すればよいのでしょうか?
以下において、内部通報制度の概要・構築する際のポイントとなる情報を紹介していきたいと思います。
2.内部通報制度の概要と効果
内部通報制度とは、一般に、企業において、法令違反や不正行為等のコンプライアンス上の問題の発生やそのおそれがあることを知った従業員などがこれに対応する窓口に直接通報することができる仕組みをいいます。
内部通報制度には、①不祥事の予防機能、②不祥事の早期発見機能、③不祥事発生後の信頼回復機能があると言われています。①の不祥事予防機能及び②の不祥事早期発見機能について、一般社団法人日本公認不正検査士協会の調査では、不正の40%以上が内部通報制度により摘発され、最も効果的な摘発手段であることや、不正発見につながった内部通報のおよそ半分が従業員によるものであったことが指摘されています。また、内部通報制度を設けている組織は、通報で不正を発見する可能性がかなり高く、不正調査にかかる費用や問題改善にかかる費用などの職業上の不正により生じる損失額が制度を設けていない組織と比べて41%低かったことなどが指摘されています。これらのデータは、内部通報制度が有効に機能すれば、企業不祥事の有効な未然防止手段となり得ることを示唆していると思われます。
3.公益通報者保護法とは
内部通報制度に関連する法律としては、公益通報者保護法があり、同法では、公益通報を行った通報者の保護が明確に定められています。公益通報者保護法の目的は、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図る点にあります。公益通報者保護法は、 およそ内部告発といえればすべて保護するというのではなく、「公益」という概念を前面に打ち出していることからもわかるように、公益に資する告発すなわち「公益通報」行為に限って保護するという枠組みです。公益通報者保護法の基本的な枠組みは、 (1)通報対象事実が発生し、または発生しようとしていることを、 (2)従業員が、不正の目的でなく通報した(公益通報を行った)場合、その公益通報を行ったことを理由に解雇その他の不利益取扱い(懲戒処分、降格、減給など)をすることを禁止するものです (同法3条・5条)。
まず、 (1)公益通報の対象となる「通報対象事実」ですが、限定されている点に特徴があります。通報対象事実は、個人の生命や身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保などに加え、国民の生命・身体・財産その他の利益の保護にかかわる法律に規定する犯罪行為などです (同法2条3項)。
次に、(2)「公益通報」とは、通報対象事実が発生したこと、または、まさに発生しようとしていることを、従業員が、不正の目的でなく、通報することを意味しています。このとき、通報先によって保護されるための要件が異なることが公益通報者保護法の大きな特徴です (同法3条)。簡単に言えば、通報先が外部になればなるほど、保護されるための要件が厳しくなります。
公益通報者制度と概要
公益通報者保護法
公益通報の通報先・相談
4.内部通報制度を整備するときに気を付けるべき点
内部通報制度を整備する際には以下の点に気を付けると良いでしょう。
(1)仕組みの整備
通報の受付から調査・是正措置の実施及び再発防止策の策定までを適切に行うため、経営幹部を責任者とし、部署間横断的に通報を取り扱う仕組みを整備するとともに、これを適切に運用することが必要でしょう。また、経営幹部の役割を内部規程等において明文化するとよいでしょう。
(2)通報窓口の整備
通報窓口及び受付の方法を明確に定め、それらを経営幹部及び全ての従業員に対し、十分かつ継続的に周知することが必要でしょう。
(3)利益相反関係の排除
内部通報制度の信頼性及び実効性を確保するため、受付担当者、調査担当者その他通報対応に従事する者及び被通報者(その者が法令違反等を行った、行っている又は行おうとしていると通報された者をいう。以下同じ。)は、自らが関係する通報事案の調査・是正措置等に関与してはならないと定めることが必要でしょう。また、通報の受付や事実関係の調査等通報対応に係る業務を外部委託する場合には、中立性・公正性に疑義が生じるおそれ又は利益相反が生じるおそれがある法律事務所や民間の専門機関等の起用は避けることが必要でしょう。
(4)内部通報として取り扱うかの検討
通報を受け付けた場合、調査が必要であるか否かについて、公正、公平かつ誠実に検討し、今後の対応について、通報者に通知するよう努めることが必要でしょう。
(5)担当者の配置・育成等
実効性の高い内部通報制度を運用するためには、通報者対応、調査、事実認定、是正措置、再発防止、適正手続の確保、情報管理、周知啓発等に係る担当者の誠実・公正な取組と知識・スキルの向上が重要であるため、必要な能力・適性を有する担当者を配置するとともに、十分な教育·研修を行うことが必要でしょう。また、 内部通報制度の運営を支える担当者の意欲・士気を発揚する人事考課を行う等、コンプライアンス経営推進に対する担当者の貢献を、積極的に評価することが適当と考えられます。
(6)社内リニエシー制度の整備
社内リニエシー制度とは、 内部通報制度を有効に機能させるために、自らが関与した不正を自主的に申告した通報者や調査協力者等については、社内処分の減免を行う仕組みをいいます。法令違反等に係る情報を可及的速やかに把握し、コンプライアンス経営の推進を図るため、法令違反等に関与した者が、自主的な通報や調査協力をする等、問題の早期発見・解決に協力した場合には、例えば、その状況に応じて、当該者に対する懲戒処分等を減免することができる仕組みを整備することも考えられます。
(PDFファイル)ガイドラインの概要
(PDFファイル)改正ガイドライン
5.コメント
内部通報制度が有効に機能し、その実効性を高めることができれば、不祥事を未然に防止するための有効な方策となることが期待できます。すなわち、法令違反や不正行為等に至らない段階で、その兆候を把握し、的確な対応をとることが可能となります。更に言えば、内部通報制度が有効に機能するためには、これまでに述べた点に留意することに加え、 公益通報に該当しない場合でも、内部通報制度の構築にあたっては、①内部通報を行ったことを理由として、不利益な取り扱いを受けないことを明確に定め、周知する、②内部通報の受付者等に厳格な秘密保持義務を課す、③匿名による通報も可能とするなどの配慮をすることで通報者の保護を図ることが大切です。
また、 仮に通報による不利益な取扱いを受けないことが明示されている場合であっても、社内に通報窓口が設置されている場合には、通報による不利益を受けるのではないかという不安から通報を躊躇する場合があるように思われます。そこで、このような不安や心理的抵抗を和らげ、通報を容易にすべく、社内の通報窓口以外に、会社から独立した窓口を社外に設けることも一つの方策として考えられます 。
そして、経営陣がコンプライアンスを遵守するとの強いメッセージを発信し、社内において、コンプライアンスの精神を企業文化として末端の従業員にまで深く浸透させることが重要と思われます。
内部通報制度を構築し、これを適切かつ有効に機能させるためには、上記のポイントを踏まえつつ、企業の規模や事業の内容・形態、組織体制、企業文化、不正リスクの伏在する領域などを総合的に考慮して、最も合理的な仕組みが検討されることが望ましいでしょう。
以下のページで内部通報するためのサンプルが紹介されています。内部通報をしやすい環境作りに活用ください。
会社に対して内部通報を行う場合のひな型
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