表明保証条項の概要と機能まとめ
2019/08/08 M&A, 民法・商法
1.はじめに
株式譲渡や、事業譲渡といったM&A取引を行う際などを中心に、契約書に表明保証条項が設けられることがあります。表明保証は英米での契約実務に由来し、近年日本でも導入が進んでいます。表明保証条項の内容は、会社の組織に問題がないことや、財務諸表の正確性、最近ではセクハラ被害の申し立ての有無(「#MeToo」条項)など多岐にわたります。
今回は表明保証条項が設けられることの多い、M&A取引を中心に解説していきます。
※参考:
M&A総合法律事務所 表明保証(レプワラ)とは?
日本経済新聞電子版2019/3/20 「#MeToo」の衝撃 投資契約にも
2.表明保証条項とは
(1).表明保証の概要
表明保証条項は、契約当事者間において、取引の前提となった一定の事実が真実であることを表明し、保証するものです。M&A取引では、主に売主から買主に対して、最終契約書の中で事業状況、財務状況についての網羅的な表明保証を行うことが多いようです。
表明保証条項の重要な機能は、リスク分担機能です。M&A取引において、契約後に対象会社に事業状況や財務状況のリスクが発見されることがあります。契約書に表明保証条項が設けてあると表明保証された項目の責任は売主が負担する、表明保証されていない項目の責任は買主が負担する、というように契約当事者それぞれの負担する責任の範囲を明確にすることができます。
買主となる企業は対象会社のことを知るために綿密な事前調査(デューデリジェンス)を行いますが、表明保証はデューデリジェンスの補完として機能を発揮します。
※参考:
日本M&Aセンター M&A用語集
シティユーワ法律事務所 法律用語集
BUSINESS LAWYERS 実務Q&A M&A契約における表明保証条項の意義と裁判例における文言解釈
(2).デューデリジェンスとは
デューデリジェンスとは、日本語だと適正評価手続きと訳され、M&A取引の対象となる会社に対し、法務、財務、税務といった様々な観点から適正な評価を下すための事前調査のことを言います。買主となる企業は経営戦略に即して調査事項を選別し、法務については弁護士、財務については会計士、税務については税理士といった各観点の専門家の協力の下、調査・分析を行い、リスクを顕在化させたうえで取引を行うか否か判断することになります。
法務担当者は外部に委託した弁護士と連携を図りながら、対象会社に違法行為や訴訟がないかといった法務デューデリジェンスを実施していくことになります。
デューデリジェンスの具体的な手続きは以下のように進んでいきます。
①インフォメーションリクエスト:
インフォメーションリクエスト とは、売主から提供してほしい資料についての情報提供依頼のことを言います。法務担当者は弁護士に、買主へ提供を依頼する資料リストの作成を依頼します。インフォメーションリクエストでは、登記や定款、議事録、社内規定といった対象会社がどのように運営されてきたかを知るための資料や、不動産登記・知的財産権などの資産状況に関する資料、取引先との契約書といった資料の提供を要請することになります。
②デスクトップデューデリジェンス:
デスクトップデューデリジェンス(DD)では、弁護士がインフォメーションリクエストを通じて入手した資料の分析や、売主への質問に対する回答内容を検討します。
③マネジメントインタビュー:
マネジメントインタビューは、弁護士が対象会社の代表者や役員等と面談を行い、対象会社の将来性や、経営課題などのリスクについてヒアリングを行います。
④現地調査:
現地調査は、①②手続きで入手していない資料の閲覧や、③で面談しなかった関係者へのヒアリング、工場や倉庫の現場視察など実際に現地に行って行う調査です。限られた時間内で行うために、事前に入手できる資料を可能な限り詳細に分析し、準備してから臨む必要があります。法務担当者は弁護士に帯同し、対象企業への理解を深めるとともに、買主が持っていて弁護士が把握していない情報(対象会社の事業内容や業界独自の慣行など)を共有し、スムーズな現地調査を行えるよう行動します。
⑤上記①~④の手続きを通じて分かった調査結果を契約書や買収価格に反映させます。
※参考:
M&A総合研究所ポータル M&Aにおけるデューデリジェンスとは?費用や種類、注意点を解説
M&A総合法律事務所 法務デューデリジェンス(DD)の詳細と進め方
弁護士廣江信行のBLOG 4デューデリジェンス(2014年4月2日の記事)
青山トラスト会計社 用語集 デスクトップデューデリジェンス(デスクトップDD)
エイアイエムコンサルティング株式会社 現場コンサルタントによる「あるある」コラム RFPとは何が違う?~RFIの書き方とポイント
みらい総合法律事務所 M&Aの基礎知識 現地調査
(3).表明保証条項の役割
a. このように社外の専門家とも協力しながら可能な限りリスクの顕在化を図ることになりますが、事前の調査だけで全てのリスクを把握するには限界があります。そこで、買主となる企業は、最終契約書に表明保証条項を設けることによって予期しないリスクを被ることを回避することができます。表明保証条項には一般的に、デューデリジェンスを通じて買主から開示された情報に虚偽がないことや、財務諸表、会計帳簿に相違がないこと、対象会社に買主の知らない訴訟継続がないことなどが記載されます。表明保証条項に違反した場合、買主は債務不履行に基づく損害賠償請求をすることや、契約を解除を請求することが可能となります。
例えば、対象会社の実際の財務状況と表明保証された内容とが異なっており、取引価格が不相当だったとします。このことが契約後に発覚したとしても、買主は表明保証条項違反を理由に被った損失の補償を売主に請求することができます。
b. また、売主はM&A取引にあたり、売却価格を高くしたいために虚偽の情報を提供するおそれがあります。しかし、契約書に表明保証条項があると、リスクが潜在している場合に売主としては買主からの損害賠償請求を避ける必要があるため、売主から自主的なリスクの申告がなされることも期待できます。
c. 法務担当者は、事前調査の実施のみでは把握しきれないリスクが存在することを認識し、リスク回避のために有効な表明保証条項が何であるかを検討したうえで契約書を作成していくことが求められます。
3.代表的な裁判例
東京地裁平成18年1月17日判決が出て以来、表明保証条項の解釈を巡って裁判例が積み重ねられています。東京地裁平成18年1月17日判決は、売主(被告)に表明保証条項違反があったことを認めた事例ですが、買主(原告)が「本件株式譲渡契約締結時において、わずかの注意を払いさえすれば、…被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず、漫然これに気付かないままに本件株式譲渡契約を締結した場合、すなわち、原告が被告らが本件表明保証を行った 事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には、公平の見地に照らし、悪意の場合と同視し、被告らは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべき」と判示しています。
上述のとおり、表明保証条項は買主側の企業がリスク回避をするために有効な手段です。しかし契約書作成段階で、ただやみくもに表明保証条項を記載してさえいればそれだけでリスクを回避できるというものではありません。表明保証条項違反を理由に損害賠償請求を行っても、デューデリジェンスが不十分なせいで容易に発見できたはずの条項違反を漫然と見逃したのであれば買主側の落ち度と判断され、リスクの分担という表明保証条項の機能から見て請求が認められないことがあるのです。
買主側の法務担当者は、いざ表明保証条項違反による損害賠償請求をしたときに、契約締結時に故意・重過失があったと判断されないよう、事前調査の段階から注意を払っておく必要があります。
出典:東京地裁平成18年1月17日判決
4.コメント
M&A取引の際などに予期しないリスクを回避するため、まず法務担当者としては表明保証条項について理解を深め、活用していくことが重要です。契約書に表明保証条項を盛り込まなかったために、避けられたはずのリスクを負担するおそれがあるからです。他方で、記載した表明保証条項が十分な機能を発揮するように、デューデリジェンスを怠らないことも不可欠です。
また、表明保証という概念が日本に導入されたのは最近です。その解釈を巡る裁判例の動向を注視し、示された解釈に合わせてどのような条項を契約書に盛り込めばリスクを回避できるか検討していく必要があります。
さらに、一般的な条項のみにとどまらず、先述した#MeToo条項のように世論の動向によっても必要な条項の内容は変化していきます。企業の経営戦略を理解したうえで、どのような事項についてデューデリジェンスを行い、契約書にどのような表明保証条項を盛り込んでいくべきか、綿密に検討することが法務担当者には今後ますます求められていくでしょう。
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