下請業者の弱みにつけこむ!下請法違反TBKに公正取引委員会が勧告
2013/02/27 コンプライアンス, 下請法, メーカー
下請代金支払遅延等防止法(下請法)の概要
【下請法の目的】
下請法は、下請取引を適正化し、下請事業者の利益保護を図ることための法律である(同法1条参照)。
下請システムとは、発注先企業と発注元企業とが対等な取引関係になく、規模の小さな発注先企業が不利な条件を飲まされ、あるいは発注元企業が発注先企業の主要な意思決定にまで立ち入り、経営上大きな影響を及ぼす関係であるといわれている。概して、「支配・従属の関係」にあるともいわれている。
【下請システムの長所、問題点】
◆ 長所
◎ 発注元企業における長所
自社にない専門的技術を利用できる点や、自社より低コストで生産できる点などが挙げられる。
◎ 発注先企業における長所
発注元から仕事が与えられるため、仕事量が安定し、発注先企業が独自の営業活動をして仕事を獲得する必要がないという点などが挙げられる。
◆ 問題点
現在の下請システムにおいては、主として、発注先企業である中小企業に不利益が生じる側面でその問題点が語られることが多い。
具体的には、発注元企業から、無理難題ともいえるコストダウンの要請や、発注先企業にほとんど利益が生じないような原価の設定等といった、いわば、「下請いじめ」と言われる問題である。発注先企業は独自の営業力や生産力を有せず、弱い立場にあるため、発注元企業の要求を受け入れざるを得ないケースが多い。
【下請法の規制の概要】
以上の問題点に対応するため、下請法は以下の規制を設けている。
◆ 書面の交付義務(3条)・書類の作成・保存義務(5条)
口頭による発注によって、後で「言った、言わなかった」というトラブルが発生することを防止するための規定である。
◆ 下請代金の支払期日を定める義務(2条の2)・遅延利息の支払義務(4条の2)
発注元の発注先に対する支払いを確実にするための規定である。
◆ 受領拒否の禁止(4条1項1号)
発注先の下請代金請求権を保護する趣旨の規定である。
◆ 下請代金の支払遅延の禁止(4条1項2号)
発注先の下請代金の受領を保護するための規定である。
◆ 下請代金の減額の禁止(4条1項3号)
発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額することは禁止される。
具体的事例としては、
① 単価の引き下げ要求に応じない下請業者に対して、あらかじめ定められた下請代金から一定の割合又は一定額を減額すること
② 「製品を安値で受注した」又は「販売拡大のために協力して欲しい」などの理由によって、あらかじめ定められた下請代金から一定の割合又は一定額を減額すること
③ 販売拡大と新規販売ルートの獲得を目的としたキャンペーンの実施に際し、下請事業者に対して、下請代金の総額はそのままにして、現品を納付させて納付数量をそのままにすることによって、下請代金を減額すること
④ 下請事業者との間に単価の引き下げについて合意が成立し価格改定がなされたが、その合意前に既に発注されているものに対してまで新単価を遡及して適用すること
⑤ 手形払いを下請事業者の希望により一時的に現金払いにした場合に、その事務手数料として、下請代金の額から自社の短期調達金利相当額を超える額を減額すること
⑥ 下請事業者と合意することなく、下請代金を銀行口座に振り込む際の手数料を下請事業者に負担させ、下請代金の額から引くこと
⑦ 消費税・地方消費税額相当分を支払わないこと
などが挙げられる。
◆ 返品の禁止(4条1項4号)
その物品等に瑕疵があるなど明らかに下請事業者に責任がある場合を除いては、禁止される。
◆ 買いたたきの禁止(4条1項5号)
原材料価格高騰が明らかなのに、一方的に代金が据え置かれた場合のように、給付の目的物について、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることは「買いたたき」として禁止される。
◆ 購入・利用強制の禁止(4条1項6号)
親事業者の指定する製品(自社製品を含む)・原材料等を強制的に下請事業者に購入させたり、サービス等を強制的に下請事業者に利用させて対価を支払わせたりすると購入・利用強制となる。
◆ 報復措置の禁止(4条1項7号)
◆ 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(4条2項1号)
◆ 割引困難な手形の交付の禁止(4条2項2号)
◆ 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(4条2項3号)
◆ 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(4条2項4号)
事案の概要
- 株式会社TBK(東京都町田市、従業員340名、東証一部上場)は、トラック、バス等のブレーキ等の製造業を営む会社である。同社は、トラック、バス等のブレーキの部品の製造を、下請事業者59名に委託していた。
- 同社は、下請事業者らに対して、自社の原価低減活動に協力するよう要請した。
具体的には、①同社は、平成22年9月から23年9月までの間、不合格品が発生したことにして経理処理することにより、下請代金の額から一定額を差し引いていた。
さらに同社は、②平成22年9月から平成24年8月までの間に、単価の引下げの合意日前に発注した部品について引下げ後の単価を遡って適用することにより、下請代金の額から、引下げ前の単価を適用した額と引下げ後の単価を適用した額との差額を差し引いていた。 - これら①②の事実が、下請法4条1項3号の下請代金の減額の禁止規定に違反するとして、公正取引委員会は、平成25年2月26日、下請法7条2項の規定に基づき、同社に対し勧告を行った。
コメント
下請法4条1項3号の下請代金減額禁止規定は、立場の弱い下請業者が不当な不利益を被るため、規制の対象とされている。
本件と同様のケースとしては、株式会社サンゲツが、インテリア製品の製造を委託している自身の下請事業者に対して、製品をカタログに載せる「見本帳協力金」、自社の取引先に対する価格引下げを補う「単価協力」等として、下請代金から一定の金額を差し引いたことが、4条1項3号に違反するとして、平成25年2月12日に公正取引委員会が同社に対して勧告を行った事案が挙げられる。
代金減額事例は、下請法違反事例の大部分を占める。発注後に代金が減額されるのは、下請業者の経営を圧迫させる重大な違法行為である。
今日の厳しい経営環境の下では、発注元企業が当初予定していた下請代金額を支払うことが困難になることは避けられない事態であるのも事実である。しかし、これを下請業者に転嫁することはなるべく避けるべきである。下請業者に対する転嫁は、下請業者の不利益となるだけではなく、業界全体の衰退を招き、結局発注先の親会社自らの首を絞める自殺行為に他ならないといえるのではないだろうか。
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