クラックツール販売者に有罪判決 国内初
2015/01/07 知財・ライセンス, 特許法, 著作権法, その他
事案の概要
近年、不正に入手したプロダクトキーやアクセスキーなどのシリアルナンバー、クラックツール等をインターネット上で配布する事例が後を絶たない。特に、クラックツールは、他人のコンピュータのデータやプログラムを盗み見たり、改ざんや破壊などを行ったりする「クラッキング」行為をするためのプログラムである。なかでも、本件で問題となったのは、ソフトウェア使用の際に要求されるライセンス認証を回避し、使用期間や機能制限のない製品版プログラムの実行を可能化する信号である不正なプロダクトIDをユーザーパソコン内に偽造・偽装する極めて悪質なプログラムである。
ライセンス認証は、購入した製品が正規に入手されたものであることを確認する目的で設計された不正コピー防止技術である。製品を継続して使用する場合ライセンス認証を行う必要がある。インターネットによるライセンス認証では、ユーザーとマイクロソフトの間でデジタル証明書が交換される。電話によるライセンス認証では、ユーザーに確認 ID が提供される。
本件は、静岡県内においてオンラインディスカウントショップを経営する男性が、BSA | The Software Alliance(以下BSA)加盟企業であるマイクロソフトが著作権を有する試用版プログラム「Office 2013 Professional Plus」のライセンス認証システムによる認証を回避する目的でクラックツールを販売したというものである。BSAは、BSA加盟企業が用いるライセンス認証システムの仕組みに関する情報を提供するとともに、不正競争防止法の解釈・適用に関し、鑑定書等を作成するなどの捜査協力を行っていた。
宇都宮地方裁判所は、2014年12月5日、当該男性に対し、ライセンス認証システムという「技術的制限手段」を「無効化するプログラム」を販売したとして不正競争防止法違反を認め、懲役1年6月(執行猶予3年)、罰金50万円併科の有罪判決を下した。これは、2014年10月15日になされた、福井簡裁での罰金50万円の略式命令に次ぐものであり、国内でクラックツール販売が不正競争防止法違反に当たると認めた初の判決である。
BSA日本担当共同事務局長の松尾早苗は、今回の起訴に対し、「クラックツール等の不正販売による被害が後を絶たず、BSA加盟企業にも多くの消費者から相談が寄せられている中、BSAは今回の不正競争防止法違反の起訴を歓迎します。技術の進歩とソフトウェア販売のビジネスモデルの変化に伴い、BSA加盟企業が用いるライセンス認証システムの役割の重大性は格段に増しています。今回の起訴は、今後の同種事案の抑止や対処にとって非常に意味のある事案です」とコメントしている。また、今回の判決については、「クラック・プログラムの不正販売による被害が後を絶たない中で、今回の判決は、非常に意味のあるものです。これにより、各地で同種事案に対する刑事捜査の弾みになるものと確信します」とコメントしている。
コメント
クラックツールは、インターネット上の配布や雑誌での同梱販売が横行しており、入手は比較的容易である。さらに、クラックツールを使用すれば高度な技術を持たなくても簡単にクラッキングを行うことができるため、興味本位のクラッカーを生み出す温床となっているといえる。今回、クラックツールの販売に対し有罪判決が下された以上、今後ツールの配布自体に対しては歯止めをかけることはできると思われる。
ソフトウェア産業においては、ライセンス認証が確実になされなければ、不正コピーや試用版ソフトウェアの無期限使用により多大な経済的損失を被ることになる。また、それ以外の企業であっても、パスワードクラッキングにより、企業内部の情報の毀損・漏えいの可能性があり、社会的信用を失いかねない。
近年、企業の対応策として、デバイス情報やユーザーの行動プロファイルを基にリスクを判断し、高リスクのアクセスと判定した場合には追加の認証を加える「追加認証」や、アプリケーションに高度のプロテクトをかけ解析を防止するソフトの導入などが挙げられている。企業には、このような手法による一層のクラッキング対策強化が望まれる。
【BSA | The Software Alliance(ザ・ソフトウェア アライアンス)について】
BSAとは、ビジネスソフトウェア産業の継続的な成長促進のための「教育啓発」「政策提言」「権利保護支援」活動を行っている非営利団体である。本部はワシントンDC。1988年に米国で設立され、日本で活動が開始されたのは1992年である。世界最大のソフトウェア業界団体として、世界80カ所以上の国や地域においてグローバルな活動を展開している。
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