行政不服審査制度変革の時
2015/03/04 法改正対応, 法改正, その他
改正の背景
行政不服審査制度は、行政処分に不服のある者が、行政庁に対して当該処分の見直しを求めて不服を申し立てる制度である。総務省による平成23年度の調査結果によれば、国で年間3万22件、地方公共団体で1万8290件の申し立てがあった。
行政不服審査法は制定以降、実質的な改正がなかったが、平成5年の行政手続法制定、平成16年の行政事件訴訟法改正などの関係法制度の整備や拡充がなされ、見直しが求められた。このような経緯で平成26年6月行政不服審査法関連三法である行政不服審査法(以下「新行審法」)、同法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(以下「整備法」)および行政手続法の一部を改正する法律(以下「改正行政手続法」)が成立・公布されるに至った。
行政不服審査法、整備法は公布日たる平成26年6月13日から起算して2年を超えない範囲内で施行予定であるが、改正行政手続法は来月の平成27年4月1日から施行されるので、今一度改正された点を概観してみる。
新たな行政不服審査制度の構造
まず、行不服審査制度は、一般に行政訴訟との関係で以下の点に特徴がある。
①書面審査が原則で簡易迅速
②審理の対象に行政処分の違法性のみならず、不当性も含まれる
③手数料が不要
しかし、簡易迅速な手続きとして現在の行政不服審査法(以下「旧行審法」)は不服申立てを経なくても行政訴訟を提起することができるとする自由選択主義が採用されていたにも関わらず、不服申し立て前置を定めた個別法が96も存在していた。
そこで、整備法において、不服申し立て前置に関する見直しが行われ、合理的理由のある個別法以外は廃止されることとなり、迅速性が期待される。また、従来の異議申し立て手続きは廃止され、審査請求への一元化が図られ、審理員制度および第三者機関の諮問制度の導入という点で公正な審理が期待されるものとなっている。
その他の主な改正点
公正性・利便性の改善を目的として次の点も挙げられる。
(1)弁明書の提出の義務付け
旧行審法下では弁明書の提出は任意であったが、審理の対象を明らかにすることが望ましいとの観点から処分庁等による弁明書の提出が義務付けられた(新行審法29条)。
(2)不服申立期間の延長・標準処理期間の設定
旧行審法では、処分があったことを知った日を起算日として60日以内と主観的審査請求期間が規定されていた(旧行審法45条)。取消訴訟の出訴期間が6か月以内となっていた点との比較から利便性を求める期間延長の要望があり、原則として3か月以内という形で延長されることなった(新行審法18条)。また、努力義務規定ではあるが、審理の遅延を防ぎ、審査請求人の権利利益救済の観点から標準審理期間規定が置かれることとなった(新行審法16条)。
(3)審理手続の計画的進行
公正かつ迅速な審理の実現には計画的な審理を行う必要性がある。そこで、新行審法では審理において相互に協力するとともに、審理手続の計画的な進行を図らなければならない旨の規定がなされた(新行審法28条)。
行政手続法の改正点
来月から施行される改正行政手続法には、国民の権利利益保護の観点から法令に違反する事実の是正のための処分または行政指導を求める制度の創設がなされた(改正行政手続法36条の3)。
また、権限を濫用した行政指導の抑制を図るため、行政指導の方式について改正がなされ、行政指導の際の根拠法令の条項、要件を提示することなど(改正行政手続法35条2項)が規定されるとともに、口頭で伝えられる可能性もあることから、原則として書面交付を求めた場合には応じる義務があることも規定されている(改正行政手続法35条3項)。
加えて、行政指導はそれ自体国民の権利義務に変動を及ぼすものではなく、行政処分にあたらないことから、弁明・聴聞の機会付与といった救済手続きは法定されていなかったが、行政指導の相手方からの申し出に基づき、当該行政指導が法律の定める要件に適合するかについて改めて調査し、必要がある場合に中止等の措置をとらなければならない旨の規定が創設された(改正手続法36条の2)。
最後に
今回は、全ての改正点を全て網羅しつつ概観することはできなかったが、企業法務の観点からは差し当たり、来月に施行される改正行政手続法については留意する必要があるだろう。
行政指導を求める制度の創設から社員が同制度を利用し、法令違反事実を通報することも考えられるだけに、社内に法令違反事実がないことの確認は徹底して行うべきである。違法・不当な行政処分を受けた際には行政不服審査制度の利用を検討し、行政指導を受ける際には示された根拠条文、要件を満たすかをチェックし、口頭の行政指導の際には書面交付を忘れずに求めることに注意を払ってもらいたい。
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